結果論からは見えない葛藤
今日からようやく新しい大河ドラマの『麒麟がくる』がスタートする。明智光秀が主人公なので、まちがいなく1年を通して観るよ〜!
当然ながら本能寺の変が最後のクライマックスになるはず。それをどのように解釈してドラマにするのか楽しみにしている。ただどれだけ物語にしても、それらは結果論でしかない。織田信長が殺されたという結果によって、残された手記や史料から勝手に原因を推測しているに過ぎない。
でもそこが歴史の楽しさだし、そこにドラマが生まれる。今日観た映画も歴史的な結果は明らか。だけどその当時の人がどのような葛藤を抱えていて、それに対してどのようにアプローチしていったか。そのことをリアルに想像させてもらえる素晴らしい映画だった。
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題:Darkest Hour)という2017年のイギリス・アメリカの合作映画。タイトルでわかるとおり、イギリスのチャーチル首相を主人公にした物語。
チャーチルを演じているのはボクの大好きなゲイリー・オールドマン。といっても写真のような特殊メイクなので、どう見てもチャーチルにしか見えない。眼光の鋭さからゲイリー・オールドマンだとわかる程度。しぐさも言葉の言い回しも、完璧にチャーチル首相だった。この演技で彼がアカデミー主演男優賞を受賞したのは当然だと思った。
物語は1940年の5月10日に首相に就任してからの1ヶ月ほどが描かれている。すでにナチスドイツとは戦争状態であり、この当時はドイツがヨーロッパ全土で圧勝していた。つまりチャーチルはいきなり苦境に立たされていた。
戦闘シーンはほぼない。その背後にある政治の駆け引きがドラマのメイン。前首相のチェンバレンも、そして本来の首相候補だったハリファックスもヒトラーとの和平派。だから徹底してチャーチルに反対する。
ヒトラーに屈しないことを宣言していたチャーチルに、とてつもない苦難が訪れる。フランスとともに戦っていたイギリス陸軍のほぼすべてである33万人の兵士に危機が迫っていた。このままだと全滅する。つまりイギリスから陸軍が消滅してしまう。
和平派はここぞとばかりにヒトラーとの和解を求める。チャーチルも弱気になり、イタリアのムッソリーニを通じて融和策を模索する。ところがそれまでチャーチルを嫌っていた国王のジョージ6世が彼の自宅を訪れる。
国王は和平派からカナダに亡命するよう勧められていた。だけど祖国と国民を捨てて自分だけ助かるなんてできない。そこでいまや完全に孤立している抗戦派のチャーチルに対して、あなたを全面的に支持すると宣言する。そしてチャーチルに国民の真の声を聞くようにアドバイスする。
ここからのシーンがすごくいい。事実かどうかわからないけれど感動した。それまで地下鉄に乗ったことのないチャーチルが、公用車から抜け出して地下鉄に乗り込む。もちろん乗客たちはびっくり。そこで彼は国民たちの本音を聞き出す。
ヒトラーに占領されてでも戦争を回避するか、それとも全力でファシストに戦いを挑んでイギリという祖国を守るかどうか。
このあとのチャーチルがめちゃめちゃカッコイイ。そして33万人の兵士を救い出すための『ダイナモ作戦』を決行する。そして議会で徹底抗戦を主張して和平派を黙らせてしまう。
この決断を下した当時のチャーチルは葛藤しただろうし、本当に怖かったと思う。最悪の場合、イギリスという国家が消滅してしまう危機だったから。だけどボクたちは彼の決断が正しかったことを知っている。もし中途半端な和平を結んでいたら、世界史は大きく書き換えられることになっただろう。ナチスヒトラーが勝利するという歴史に変わっていたかもしれない。
結果を知っているから安心して観ていられるけれど、当時の人たちにすれば苦しい決断だったと思う。戦争を肯定するわけじゃない。だけど当時のチャーチルの決断がブレていたらと思うと恐ろしい。だからこの映画のサブタイトルは、『ヒトラーから世界を救った男』になったんだろう。とても見応えのある秀作だったなあ。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
『第1回令和小説大賞』にエントリーした小説を無料で読んでいただくことができます。くわしくはこちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする