想定外の数珠つなぎ
地震や台風で大きな被害が出たとき、よく使われる言葉に『想定外』というものがある。便利な言葉なんだけれど、あまりに多用すると自分のことをバカだと言っているのと同じになる。普段から物事を深く考えてない証明になるからね。
いまの時代はちょっと以前の人が見たら想定外のことばかり起きている。つまり現代人は、何が起きても不思議じゃないことを自覚しておくほうがいいということ。想定外という言葉を陳腐化させるくらいの思考法をキープしないと、生きづらい世の中になってきたように思う。
そして想定外というのはドラマを生む。だから映画や小説では必ず想定外のことが起きる。それをうまく配置することで、物語が人を惹きつけていく。ところが昨日読了した小説は、最初から最後まで『想定外』が数珠つなぎになっている物語だった。
『疾風ロンド』東野圭吾 著という小説。これは東野さんでないと書けないなぁと感じる作品だった。登場人物の配置が上手いだけでなく、先ほど書いた『想定外』が巧みに配置されている。そのうえ、『想定外』が最初から最後まで読者に襲いかかってくる。
事件の発端はある大学の研究室で極秘に開発された生物兵器で、『Kー55』という新型の炭疽菌。もしこの菌がばらまかれたら、その地域の住人が全滅するほどヤバいもの。
その開発者がクビにされたことを恨み、『Kー55』を盗んで大学を恐喝した。求めているのは3億円。炭疽菌を隠したのはあるスキー場のコース外の山林だった。そのまま雪が溶けて気温が10度になると保管容器が破損する構造になっている。
その保管場所の目印はテディベアのぬいぐるみ。そこに発信器が仕込まれていて、300メートル以内ならわかる構造になっていた。冒頭で最初の想定外が起きる。なんと犯人が交通事故で死んでしまう。
恐喝されていた大学側は、なんとか犯人が持っていた受信機を手に入れる。それでスキー場を特定することで、必死になってテディベアを探す。ところが誰かがそのテディベアを持ち去ってしまう。
そこからが大変。ようやく見つかったテディベアを持っていたのは家族でスキー場に来ていた幼い少女。調べてみるとスキーをしていて中学生とぶつかり、その中学生がお詫びにとそのテディベアをくれたとのこと。
そしてようやくその中学生を見つけたと思ったら、炭疽菌を奪った犯人に協力していた人物に奪われてしまうという想定外が起きる。主人公たちの大活躍でようやく炭疽菌が戻ったと思ったら、ある出来事を誤解した別の中学生によってコショウにすり替えられていたwww
そんなこんなで事件が解決したと思ったら、最後の最後に再び犯人の協力者だった人物に炭疽菌が奪われる。その人物は海外に買い手を見つけていて、密かに出国しようとする。だけど税関で捕まってしまう。
しかし炭疽菌だったはずの容器に入っていたのは、冷凍されていたフランクフルトだった。シリアスな小説なのに、このラストはまじで笑いこけてしまった。そうなったのは、もうひとつの想定外があったから。とにかく最後の1ページまで息を抜けない物語だった。さすが東野圭吾さん!
この作品は2016年に映画化されているそう。これだけ想定外があると、たしかに映画になれば面白いと思う。いくら普段から想定外のことに意識を向けていても、この小説ほど数珠つなぎになったら翻弄されてしまうだろうね〜〜!
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