最後にガツンとくるのが怖い
恐怖には様々なパターンがある。ホラー映画を観ていて、予測していない場面でいきなり大きな音ともに幽霊が出ているのはかなりビビる。
でもボクにとってもっと怖いのは、来るぞ、来るぞ、という雰囲気で緊張感が増しているときにガツンと来るやつ。何かが起こるとわかっている場合、そのときにやってきた恐怖は何倍にも増すように思える。
そんな最後にくるドキドキを楽しめる小説がある。
『昨日がなければ明日もない」宮部みゆき 著という小説。
この作品は『杉村三郎シリーズ』というシリーズものの最新刊。ボクの大好きなシリーズで、いつも最新刊を楽しみにしている。
過去の作品として、
『誰か Somebody』
『名もなき毒』
『ペテロの葬列』
『希望荘』
という4つの作品が単行本化されている。そして最新作がこの『昨日がなければ明日もない』という作品。
主人公の杉村三郎は、とにかくソフトなキャラ。元々は児童書の編集者をしていたが、ある女性と恋愛結婚したことで人生が変わる。その女性は今田コンツエルトという大企業の娘。三郎は出版社を辞め、その会社の機関紙の編集者として雇われる。
とにかく事件に巻き込まれる体質で、彼の近くでいつもとんでもない事件が起きる。ときには命の危険にさらされたり、妻や娘の桃子にまで危険が及んだこともある。
この三郎の人生がとにかく波乱万丈。第3作目では妻の不倫によって離婚する。当然ながら会社を辞め、第4作の『希望荘』からは私立探偵として活躍している。事件に巻き込まれるけれども、三郎の鋭い洞察力によって数々の事件を解決してきた。それで探偵として生きていくことを決意した。
この最新作も同じく大活躍する。ただしこの小説はのどかな雰囲気で物語が進むけれど、最後に必ずオチがある。もちろん三郎の推理によって導かれる結論なんだけれど、それがかなり怖い。ラスト近くになると、ボクはドキドキしてしまう。今回もその連続だった。
全部で3つの物語が収録されている。
『絶対零度』
ある女性が自殺未遂をして入院する。その女性の母親は娘に会おうとするが、夫が許さない。妻の自殺の原因が母親にあるということで、どうしても面会をさせてくれない。そこで困った母親が三郎に相談するという物語。
この物語は登場人物が複雑に絡みあっていて、まさに宮部ワールドという展開になっていく。入院しているはずの女性が病院にいないことがわかり、三郎は殺害されている可能性も考える。つまり夫が怪しい。
だけどその女性は生きていた。そして三郎が明かした事実は壮絶なものだった。ネタバレはしないけれど、かなりショッキングな結末を迎える。
『華燭』
これはかなりのどかな雰囲気で始まる。三郎が間借りしている事務所の大家さんに頼まれて、ある女性の結婚式に出席する。当日は時間をずらして2つの披露宴が予定されていた。三郎たちが式場に到着すると騒然としている。
三郎たちが参加する披露宴は、新郎の元カノの影響で結婚が破談となっていた。もう一つの披露宴会場では、花嫁が失踪してしまった。だから大勢の人たちが集まって大混乱となっている。ところがこの二つの騒ぎは偶然に起きたものではなかった。
恐ろしいオチではないけれど、感動しつつもかなり驚いた。
『昨日がなければ明日もない」
これまた三郎の雰囲気らしく、物語はおだやかに展開する。ある毒母がいて、息子が被害にあった交通事故に関して多額の賠償金を得ようとする。事故ではなく、自分の息子を殺そうとしたというのが彼女の言い分。
それで三郎に相談した。ところがこれは完全に理不尽な要求で、その女性にあきらめてもらうために三郎は依頼を受ける。そしてきちんと裏をとって、殺人ではなく単なる事故だったと証明する。
これもまたオチが恐ろしい。三郎の善意による報告によって、とんでもないことが起きてしまう。後味の悪さでは、今回の3つの作品のなかでトップだと思う。まさかこんな結末になるとは。
これからもこのシリーズが楽しみ。ボクは三郎の大ファンなので、ずっと続いてくれることを願っている。
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