逆境を変容させる魅力に感動
素晴らしい小説や映画というのは、主人公に惚れ込んでしまう。その人物が男であれ女であれ、人間として惚れ込むことで物語の世界に没入する。
いまボクがハマっている主人公が、江戸時代の「つばき」という女性。気になっていた彼女のその後を知ることができた。
『つばき』山本一力 著という小説。少し前に、この物語の主人公であるつばきの生い立ちから成功までを描いた物語を読んだ。『だいこん』というタイトルで、『才能ある女性はカッコいい』という記事に感想を書いた。
少女時代に極貧だったつばき。でも彼女の才能によって、わずか18歳で一膳飯屋である『だいこん』のあるじとなる。彼女の才覚、そして人柄の良さ、さらに強運を引きつける能力によって、一膳飯屋として大成功するまでが『だいこん』という小説の内容。
ところがある豪商とケンカをしたことで、それまでの『だいこん』を人手に渡し、深川で新しい『だいこん』を開業する。『つばき』という続編は、深川で苦労しながらも成功していく姿を描いたもの。
彼女の強みは『閃き』にある。ピンと来た直感を決して見過ごさない。そしてどんな仕事も誠意を込めてやり切る。だから人との出会いを通じて強運を呼ぶ混むことができる。今回の物語でも、しょっぱなにとんでもない逆境が待ち構えていた。
出る杭は打たれる、というとおり、つばきは詐欺にあう。大手の問屋でる「木島屋」に出入りしている大工から、上棟式の弁当を依頼される。豪華な弁当の依頼で、相当の難題を抱えることになった。
それでもつばきは知恵をしぼり、見事な弁当を完成させる。そのアイデアも本当に素晴らしい。ところが期日に弁当を納品すると、とっくに上棟式は終わっているとのこと。依頼した大工は偽物で、かなり手の込んだ卑劣な詐欺だった。
だけどその弁当の素晴らしさと、つばきの気風の良さに帆れ込んだ「木島屋」の隠居によって、つばきは大きなチャンスを手にする。そしてそれを成功させて、それまでになく『だいこん』を大きくする基礎を作り上げた。この小説の面白さは、悩みながらも逆境を変容させていくつばきの才能を目撃すること。そしてその魅力に、読者は惚れ込んでしまう。
1作目の『だいこん」でも登場したヤクザの親分である弐蔵との関係も面白い。幼いころは父の借金取りとして家族を苦しめてきた弐蔵に対して、つばきが好意を寄せていく様子がたまらなくワクワクする。嫌いなやつなのに、いつもつばきを助けてくれる。乱暴者なのに、どこか優しくて頼りがいがある。
二人がどうなるかと読み進めていくと、ラストになってつばきに最大のピンチが訪れる。その結果、愛してきた店を手放そうと心を決める。さらに弐蔵との関係も複雑なまま。なんと、そこで終わってしまった!!!
えっ、えっ、えっ、どういうこと?
気になって調べたら、まだ続編があった。第3作目のタイトルは『花だいこん」で、現在は連載中とのこと。つまりまだ単行本化されていないから、その後のつばきがどうなるかを知ることができない。
いまさらその小説雑誌のバックナンバーを読むのは大変なので、単行本になるのを待つしかない。つばきの行く末が気になるけれど、どうしようもないよね。困ったもんだ。
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