異世界を繋ぐ渦から生まれたもの
創作ということに関して、以前から感じていることがある。
それは小説だけじゃなく、音楽、絵画、戯曲、陶芸や彫刻等を含めた、すべての創作物に共通すること。何億円もの値段がつくものであっても、誰にも見向きされないものであっても、誰かの手によって最後まで完成されたものに共通していること。
それは創作者が、どこかの異世界、あるいは並行世界とつながっていた、ということ。創作物はそうしてこの世に現れるんだと思う。
その異世界とこの世をつなぐものを、『渦』と呼んだ人たちの物語を読んだ。とても清々しく、心震える作品だった。
『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』大島真寿美 著という小説。昨年の直木賞を受賞した作品で、著者が初めて書いた時代小説とのこと。
物語の主人公は、近松半二という人形浄瑠璃の作家。有名な近松門左衛門の後継者として、大阪は道頓堀にあった竹本座で活躍した実在の作家。
彼の代表作は『妹背山婦女庭訓』(いもせやまおんなていきん)という作品で、歌舞伎好きの人なら知っているタイトルだろう。もちろん文楽のために作られた作品で、大ヒットしたことで歌舞伎でも上演されるようになった。
この小説はこの『妹背山婦女庭訓』が完成するまでをクライマックスとして、近松半二の生涯を追いかけたもの。半二は18世紀の前半から後半まで関西で過ごした人。彼が作家として活躍するころは、人形浄瑠璃が歌舞伎に圧倒されて斜陽を迎えつつあった時代。
近松門左衛門のときには全盛だったけれど、人間の役者が演ずる歌舞伎の魅力には勝てなかった。そんな苦戦続きの文楽において、『妹背山婦女庭訓』という作品は劇場に入れない客で大騒ぎになったほどの大ヒット作となった。ここに至るまでの物語に心が引っ張られて、ボクは江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わったほど。
それは半二という人物の魅力ゆえだと思う。そして彼と一緒に文楽や歌舞伎を創作していった人たちの魂が『渦』となって、この物語全体を巻き込んでいったからだろう。半二はあの世に去っていった仲間たちも、並行世界で作品を作り続けていると信じていた。
そんな彼も、死を迎える直前まで新作の執筆をしていた。彼の最後の原稿を完成させたのが、才能を引き継いだ娘であり、いつも彼を支えていた妻だった。きっと二人も異世界の『渦」に接することで、亡くなった半二の魂をこの世に結んでいったんだと思う。
久しぶりに文楽が見たくなたったなぁ。でもウイルス騒ぎが落ち着くまで、どうしようもないよね。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする