最恐の悪魔は人間の憎しみ
退行催眠というものがある。人間は辛い記憶を封印していたり、時間が経てば忘れてしまうこともある。それで時間をさかのぼることで、顕在意識に存在しない記憶を呼び起こそうという催眠術。
催眠によって子供時代、乳児時代、そしてそれ以上にさかのぼると、生まれる前の過去生まで思い出せるという事例まで報告されている。スピリチュアルに関心のある人なら、ピプノセラピーとして知っているだろう。
ただし現在の心理学では、この退行催眠に関して否定的な見解が主流となっている。過去を思い出しているように見えて、実は植え付けられた偽の記憶を思い出している事例が続発した。特に事件の捜査等に利用された場合、警察官から事前に受けた尋問の影響によって、事実ではない記憶を捏造している場合があったらしい。
だから退行催眠の記憶が、事件の証拠として採用されることはなくなった。その流れで行くと、ピプノセラピーもかなりマユツバになってくるね。自分が望む過去生を、リアルな記憶として捏造しているかもしれない。
その真偽はさておき、退行催眠が引き起こした悲劇を描いた映画がある。実話を元にしたフィクションとのことなので、かなり真に迫るものがあった。
『リグレッション』という2015年のアメリカ映画。たまたまなんだけれど、二日連続でイーサン・ホーク主演の映画を観ることになった。昨日は牧師だったけれど、今日はケナーという名の刑事。牧師役の彼とはまったくの別人だったので、さすがの名優だよね。顔も髪型もほぼ同じなのにwww
1990年のミネソタで、父親による娘の虐待事件が起きる。17歳のアンジェラが教会に逃げたことで、父親による性的な暴力が明らかになった。そのアンジェラをエマ・ワトソンが演じている。
父親は逮捕されたけれど、記憶がないという。どうやら記憶障害らしく、心理学者のケネス教授が呼ばれる。ちなみにケネスを演じているのはハリーポッターシリーズでリーマスを演じたデヴィッド・シューリスなので、エマ・ワトソンと一緒のシーンはホグワーツの再現だったwww
話を戻そう。父親に対するケネスの退行催眠により、悪魔崇拝の儀式が行われていたことがわかる。その結果、ケナーと同じ警察署に勤める人間もその儀式に参加していたことがわかった。父親も警官も虐待容疑で逮捕される。
ここから話がオカルトの世界に突入していく。悪魔崇拝の信者はこの街に大勢いて、儀式をバラしたアンジェラの命を狙っているらしい。その秘技を知ったケナーにも殺害の警告がなされる。アンジェラの弟や祖母の退行催眠によって悪魔教組織の犯行を確信したケナーは、精神的に追い詰められていく。
ところがそのオチには、大どんでん返しが待っていた。悪魔も悪魔を崇拝する教団も存在していない。それはすべてアンジェラの妄想から生み出されたものだった。
酒びたりで働かない父親のせいで、母親が自殺した。アンジェラはそのことで家族を憎み、父、弟、そして祖母をおとしいれようとした。そこで悪魔教崇拝のシナリオを作った。そう見せかけたことでケナーや警察署の人間、さらに町中の人間が悪魔教の存在を信じてしまった。
その元凶となったのが、退行催眠による証言。つまり最恐の悪魔は、アンジェラの憎しみだったということ。そんな二面性のある複雑な女性を、エマ・ワトソンはうまく演じていたと思う。ハーマイオニーの印象が抜けないところは、少し気の毒だけれど。
ただし、映画としては失敗かな。あれだけハラハラドキドキさせて、そのうえ悪魔の存在までチラつかせて、結局はすべて妄想でしたというエンディングはマズい。物語してはタブーの手法だと思う。もしこの結末にするなら、もっと徹底した虚構を積み重ねて観ている人を納得させる必要があると思う。
その最高の例を出すならば、『ゴーン・ガール」のエイミーだろう。エイミーほど悪女に徹していれば、妄想で終わるエンディングもありだと思う。そのあたりがちょっと弱かったのが残念だった。惜しい作品だよね。
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