不眠が引き起こす幻覚の恐怖
昨日の午後11時ころ、マジでムカつくことがあった。隣の部屋の住人が廊下に出て大声で電話をしていた。おそらく家族に内容が聞かれたくないか、起こしてしまうのをためらったからだろう。
だけど廊下側の部屋を寝室にしているところは多い。つまりモロに声が聴こえる。30分以上もでかい声で話し続けていたので、ボクは完全に目が覚めてしまった。結局午前1時近くになるまで眠れなかった。
そんな少しの安眠妨害でもイライラする。睡眠不足は肉体の健康に害があるだけでなく、精神的にも負担が大きい。人間は眠れないと死んでしまうんだからね。
だから不眠症は恐ろしい。1年以上もまともに寝ていないと、人間がどうなっていくかを描いた映画を観た。
『マシニスト』(原題: The Machinist)という2004年のアメリカ映画。ほぼ1年眠っていない主人公を演じているのは、写真のクリスチャン・ベール。この映画の翌年には『バットマン・ビギンズ』に出演しているけれど、同じ人物だとは思えない。
1年間不眠の主人公を演じるため、クリスチャン・ベールは30キロも体重を落とした。裸になるシーンがあるけれど、まさに骨と皮しかなかった。そしてこの映画の撮影後、バットマンのオーディーションを受けるために4ヶ月で体重を戻したとのこと。すさまじい俳優魂だよね!
マシニストは機械工のことで、主人公のトレバーは工場で働いている。とにかく眠れない。どうにか仕事をこなし、馴染みの売春婦と過ごし、深夜の空港のカフェでウエイトレスのマリアと談笑するのが日課だった。
ある日、同僚に手伝いを頼まれたトレバーは、不注意で事故を起こしてしまう。その結果、同僚は片腕をなくしてしまう。トレバーが気を取られたのは、アイバンという男を見ていたから。そのことを会社に説明しようとするが、アイバンという人間を誰も知らない。このあたりから彼の幻覚が始まっている。
自分はアイバンにはめられ、そして工場の上司も同僚もグルだ。トレバーはそう疑い始める。そのうえ自宅の冷蔵庫には謎のメッセージが残されていたり、アイバンを知らないと言ったはずの人間が、彼と一緒にいる写真を見つけたりする。
工場をクビになったトレバーは、このままではアイバンに殺されると思う。そしてついにアイバンの正体を暴くために行動を起こす、という物語。
ラストではすべての謎が明らかになる。アイバンが誰で、彼が乗っていた車の事実。そしてトレバーが不眠になった理由もわかる。わかっていたけれど、かなり衝撃的なことだった。
これはいわゆる映像のトリックを使った作品。映画を見ている人が事実だと思って進行している物語は、精神が壊れていくトレバーの心象風景を描いたもの。だから不眠で精神を病んだ人が、どのようなことになっていくかを疑似体験できる。
自分が事実だと確信していることを、周囲の人間がことごとく否定する。その恐怖たるや、体験した人でないとわからないだろう。おそらく認知症の人たちは、こういう辛い体験をしているんだと思う。
ちょっと怖いけれど、映画としての質はかなり高い。そしてクリスチャン・ベールという俳優さんの、鬼気迫る演技を見るだけでも価値のある作品だと思う。
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