抑圧された記憶の正体
猛暑の期間中に執筆していた新作小説が完成。幽霊を主人公にした作品で、書いていて本当に楽しかった。
その主人公には抑圧された記憶があって、それが幽霊となった理由。これがなかなか辛いものだったという結末。
人間の記憶というものは不思議で、重要なことを抑圧したり、どうでもいいことを覚えていたりする。さらに記憶の捏造も加味されるから、自分の頭にあることが真実だとは限らない。
今日観た映画は主人公が抑圧された記憶に近づいていく過程を描いたもの。人間は信じたくない記憶をどのようにして変換させるか、その過程をストレートに映画化している。素晴らしい作品だし、この映画を作った人たちに拍手を送りたい。実話だけに、周囲の強い抵抗があったと思う。
『ジェニーの記憶』(原題:The Tale)という2018年のアメリカ・ドイツの合作映画。少女への性的虐待をテーマにしたもので、決して気軽に観られる内容ではない。だけど映画としてこの作品は、ストーリ構成から編集、そして全体の構成に至るまで見事な内容に仕上がっていたと思う。
主人公のジェニーはドキュメンタリー作家として成功していて、大学でも講義を受け持っている。一緒に暮らしている恋人ともうまくいっていて、順風満帆の日々を送っているように見えた。
だけどある日、母親があわてた様子でメールを送ってきた。ジェニーが13歳のときに書いた小説の原稿が自宅の倉庫から出てきた。学校の授業でジェニーが書いたもので、フィクションとして優秀な成績をもらっている。
ところがそれを読んだ母は、それがフィクションだとは思えなかった。思い当たることがあったから。そして13歳のときに何があったのかを娘に問い詰めてきた。ジェニーには性的虐待を受けたという記憶がない。
13歳のときには美人の乗馬教師に出会い、その女性の紹介で元メダリストの陸上コーチを紹介してもらった。そんな二人の愛女に包まれて、乗馬と陸上の能力を高めていった記憶しかなかった。二人のことを愛していたという記憶しか。
ところが当時の友人に会ったりして調査していくうち、自分の記憶が事実とちがうことに気づき始める。そして映画の後半では、恐ろしい事実が明らかになった。新しい映画なので、ネタバレはここまで、
ジェニーを演じたローラー・ダーンの演技が秀逸。最近では『スターウォーズ』の最新作でいい演技をしていた。この作品では、抑圧された記憶を取り戻していく複雑な女性を見事に演じていた。そしてさらに驚いたのが、ジェニーの少役時代を演じた子役。
イザベル・ネリッセという名前しかわからないけれど、天才子役というしかない。性的な描写については成人女性の代役を立てたそうだけれど、とにかくすごい演技だった。このまま俳優を続けたら、きっと映画史上に名を残す女優さんになると思う。
重いテーマの映画だけれど、子供に対する虐待に正面から向き合っている素晴らしい作品だった。過去と未来のつなぎ方も良かったので、一見の価値がある作品だと思う。
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