心が壊れていく音を感じた
最近は『コロナうつ』という言葉をネットでよく見かける。思うように外出できなかったり、商売をしている人はコロナに生活を脅かされている。人によって事情はちがうだろうけれど、誰もが大きなストレスを抱えているはず。
今日見かけたTwitterにもそれを証明するような投稿がされていた。友人に心療内科の受診を勧めたところ、予約がいっぱいですぐに診察してもらえない状況らしい。評判のいい医師だと、何ヶ月も待たなければいけないそう。
人間ってそんなに強くない。毎日能天気にブログを書いているように見えるボクだって、へこんで立ち直れない気分になったり、不安に押しつぶされそうなることがある。それでもどうにか折り合いをつけて、笑顔をキープしている毎日。そうすればいいことだってあるからね。
そんな人の心が壊れていく様子が克明に記されている本を読んだ。小説を書くうえで参考になったし、読み物としても素晴らしい内容だった。ただしフィクションではなく、事実を記したものだけにキツい。登場人物の心が壊れていく音をリアルに感じてしまう文章だった。
『病み上がりの夜空に』矢幡洋 著という本。
心理療法士である著者が自分の体験を綴ったもの。基本的に奥さんとの出会いからクリニックの開業、そして一人娘が成長していく過程が描かれている。書いているのは著者なんだけれど、語り手は妻と著者のパートに分かれていた。
最初に驚いたのは奥さんの育った環境。奥さんの母親と祖母の険悪な関係が、彼女の心を壊してしまった。互いの喧嘩に娘を巻き込むことで、祖母と母親の二人から常に毒のある言葉を投げかけられた。母親の場合は具体的な暴力にまで及んでいる。
その結果、彼女は離人症という心の病気になってしまう。わかりやすく言えば体外離脱をするような感覚で、自分という存在を意識できなくなり、客観的に見つめてしまう。強烈なストレスから身を守るための本能的な行動なんだろう。
結局彼女はどんな医者も自分を治せないことに愕然とする。だとしたら自分がそのような人間になろう。彼女は心理療法士を志すことを決意して、自らの病気に打ち勝った。そしてその結果、夫である著者と出会う。
奥さんは母親と縁を切り、夫とクリニックを開業することで新しい人生設計を立てた。それで全てがうまくいくように思ったけれど、娘が生まれてから新たな苦難が待ち受けていた。一人娘が自閉症だとわかったから。
ここから夫婦二人の新しい戦いが始まる。だけど奥さんは完璧主義で、自閉症の娘を産んだことに罪悪感を覚えるようになってしまう。そのうえ更年期障害に端を発した自律神経の不調によって、普通に生活できないほどの不調を抱えてしまう。それゆえさらに罪悪感を持つという悪循環になった。
だから以前のような離人症の症状が出ることもあり、著者も娘の面倒を見ながら奮闘することになる。開業したクリニックも営業継続が苦しくなって、必死で本を書いて印税で暮らそうとした。それでも貯金がどんどん減っていく。そんな苦悩する夫婦の様子が淡々とした文章で綴られていく。
結果として、いまはその苦労を乗り越えておられるけれど、この本に書かれてるいる当時は本当に大変だったと思う。心の専門家だけに、具体的な描写に思わず引き込まれてしまった。それゆえ自分が当事者になったような気にさせられて、本気で胸が痛くなってしまった。
人間の心はそれほど強くないけれど、それを乗り越えていくことは絶対にできる。そんな明るい可能性を感じさえてもらえる素敵な内容だった。
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