親と子をつなぐ希望の糸
ベストセラー作家がなぜそう呼ばれるのか? それは出版する本のすべてにおいて、全力で物語を構成しているからだと思う。決して手を抜くことなく、緻密な設定で物語を組み上げていくから。そんな作家のひとりに東野圭吾さんがいる。
できる限り著者の作品を追いかけている。そしてその技法を少しでも盗もうと意識して読んでいる。だけどいつも絶望的な気持ちになってしまう。なぜならそのストーリーの深さと幅広さ、そして完璧なまでの発想力に圧倒されてしまうから。今回もマジですごい作品に出会ってしまった。
『希望の糸』東野圭吾 著という小説。東野さんの著作にはいくつかシリーズものがある。代表的なものでは『ガリレオシリーズ』と呼ばれるもの。映画では福山雅治さんがガリレオを演じている。最近の映画では木村拓哉さんが主演した『マスカレード・シリーズ』もある。
そしてそれらに匹敵するシリーズが、『加賀恭一郎シリーズ』と呼ばれている刑事物。加賀恭一郎という刑事が主人公で、以前は所轄署の刑事だったが最新作では警視庁の捜査一課に配属されている。この作品はその加賀恭一郎が登場するので、そのシリーズのひとつだと考えていい。
だけど今回の小説は加賀刑事は脇役。事件の犯人を尋問していて自白させるシーンがあるけれど、この小説の主人公は彼の従兄弟の松宮修兵という部下の刑事。このシリーズを知っている人なら、松宮のことはよく知っているだろう。いつもはいい脇役なんだけれど、今回は堂々の主役で登場している。
昨年に出たばかりの新しい小説なので、これから読む人もいることだと思う。それゆえできる限りネタバレしないように注意しよう。
今回の作品のテーマは親と子の絆だと言っていい。それは血縁としてのつながりだけでなく、血縁のない親子としての関係もテーマとなっている。
松宮の父親は、彼が幼いころに死んでいるというのがこれまでの設定。ところが石川県の金沢の有名な旅館の主人が死を迎えていた。その遺言書には松宮を息子として認知するという文言があった。それで一人娘として旅館を継いだ女将が松宮を探す。
この小説のサブストーリーとして、この松宮と父の物語がある。母の克子はなかなか真実を語ってくれない。どうやら父親は二つの家庭を持っていた。だけどそんな非道なことをする人物ではない。その事情が最後に明かされるけれど、本当に切なくて悲しい物語だった。
そして松宮と加賀が追う殺人事件にも、親子の問題が絡んでくる。あるカフェの女性経営者が殺される。捜査で浮かび上がった人物が、その女性の離婚した元夫と、現在交際していた可能性のある男性。でも犯人は別人で、この事件についてはあっさりと解決する。
だけどこの元夫と殺された女性、さらに交際していた可能性のある男性の3人には、想像を超えた深いつながりがあった。これにボクはマジで驚いて、完全に東野マジックに翻弄されてしまった。
どうしてもこのことだけは書きたいので、知りたくない人はこの先を読まないように。
『そして父になる』という映画を知っているだろうか? 赤ちゃんの取り違えをテーマにした作品。福山雅治さんとリリーフランキーさんの二人の父親の素晴らしい演技がいまでも心に残っている。それと同じようなことが起きた。ところが取り違えの事情がかなりちがう。
この小説では不妊治療が大きな問題となってくる。なんと医師のミスで受精卵が取り違えられてしまった。つまりまったく他人の子供を妊娠して育てたことになる。今回の殺人事件は、そのことが大きく影響してくる。
書けるとしてもこの程度かな。これ以上知りたい人は、是非とも本作を読んで欲しい。ある意味ハッピーエンドの内容なので安心して読めるはず。親と子をつなぐ希望の糸について、この本を読了すれば何かを感じるだろうと思う。本当に素晴らしい小説だった。
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