無情で虚無感に満ちた世界
人間にとって『希望」がどれほど大切なものか、SF世界を通じて教えてもらえる映画を観た。かなり異質な作品なので、好き嫌いは分かれるかも。結末にスッキリ感は存在しないけれど、ボクの感覚として高い評価をつけたい作品だった。
2021年 映画#6
『ANIARA アニアーラ』という2018年のスウェーデン・デンマークの合作映画。スウェーデンのノーベル文学賞受賞作家ハリー・マーティンソンの代表作「アニアーラ」を実写映画化したスウェーデン製SF大作というふれこみ。
地球は放射能で汚染され火星に移住するしかなかった。そんな移住用の宇宙船であるアニアーラには8000人の人が乗船していた。内部は豪華客船のようになっていて、レストランや娯楽施設がある。これなら火星までの3週間の旅は快適だと思える。
主人公はMRという同性愛者の女性。彼女の仕事はミーマというAIを使うことで、乗船している人の地球生活時代の記憶にアクセスさせること。宇宙生活のストレスをそれで解消させるためのもの。だけどわずか3週間ほどの旅でミーマを使う人はあまりいない。
ところがアニアーラは不慮の事故を起こし、宇宙をさまよう事になる。船長は2年もすれば到達する惑星の重力を利用することで、元に戻れるという嘘をつく。本当は永遠に宇宙を漂うしかない状況だった。そして数年して事実が告げられる。
パニックになった人はミーマに押しかける。現実逃避するしかないから。やがてネガティブな人間の意識を取り込みすぎたAIは自らを破壊してしまう。そこからはひたすら悲惨な状況が待っていた。何十年でも食料に困らず過ごすことは可能。だけど人間の精神がそのことに耐えられない。
なぜならそこに『希望』が存在しないから。MRはイサゲルという女性飛行士との恋愛で希望を見つけようとする。だけど未知の宇宙船との接触による最後の『希望』が途絶えたとき、イサゲルは自殺してしまう。
永遠に宇宙をさまようことは、ずっと静止した場所にいるのと同じ。何も変化しない。やがて人間に訪れるのは無情で虚無感に満ちた世界。人々はカルト宗教を作ったり、セックスや酒に溺れる。
最終的に何人の人が生き残ったのはわからない。ラスト近くで、年老いたMRが失明して廃墟のような宇宙船で横たわる場面がある。そしてラストシーン。何百万年も漂流したアニアーラが、地球とよく似た惑星の重力に引き寄せられるシーンで終わる。
船内に人間は存在しているのか? そのことは明かされることなくエンドロールとなる。なんとも言えないラストシーンだった。かなり変わった作品だけれど、言い知れない不思議な引力を持っている物語だったなぁ。
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