同じ立場だからわかり合える
ボクは大学卒業後、父親が経営する小さな会社に就職した。いわゆる後継ぎというやつ。ただ結果としてその仕事を好きになれず、父の元を去った。
小さな会社であっても、後継ぎとして注目される。元請けの会社ははボクの人物を見定めようとするし、下請けの人たちは無理した愛想笑いを向けてくる。
そんな後継ぎのプレッシャーを共感してもらえる場があった。父の会社は企業組合に所属していて、そこに『二世会』という集まりがあった。読んで字のごとく、二世たちの集まり。
京都は山科の企業組合なので、清水焼の窯元の息子たちが多かった,それでも後継ぎとしてのプレッシャーは同じで、旅行や集まりで会話をしながら、苦労しているのが自分だけでないことがわかった。
その立場にならないとわからないことってある。昨日読了した小説は、ある特殊な血を引いた人物たちの相互理解がテーマだった。
2021年 読書#7
『うそうそ』畠中恵 著という本。妖怪たちが登場する時代小説の『しゃばけ」シリーズの第5弾。
第1弾の『しゃばけ』は長編小説だったけれど、その後はずっと短編小説が続いていた。この作品は『しゃばけ』以来の長編小説となった。
主人公は一太郎という廻船問屋兼薬酒問屋の後継ぎ息子。ただし彼の場合の後継ぎは商売だけではなく、妖怪の血を引いているという部分もある。
一太郎の祖母のおぎんは力のある妖怪で、皮衣というのが本当の名前。祖父は普通の人間だから、一太郎は妖怪のクオーターということ。
病弱でうっかり外にさえ出られない一太郎を守るため、祖母は佐助と仁吉という手代をつけた。もちろん二人は妖怪。この3人を中心にして、毎回さまざまな事件が起きては解決するという物語。
今回は一太郎の湯治がトラブルの発端。祖母が孫に会いたいということで、箱根まで出向くようとの神託があった。そのついでに身体の弱い一太郎は箱根で湯治することになった。
江戸から一度も出たことのない一太郎。もちろん佐助も仁吉も旅の共をする。そして腹違いの兄である松太郎も同行することになった。
ところがその頃から地震が多発する。その理由はどうやら一太郎の箱根行きにあった。ある山神の娘がいる。一太郎と同ように人間の血が混じっているハーフ。だけど彼女の場合、1000年ほど前に人柱に立てられそうになったという不幸な経験をしている。
それ以来人間を信じられない。だから妖怪の血が混じっているのに幸せに暮らしている一太郎に嫉妬した。それが地震の原因。
地震によって姫の立場が悪くなることを恐れた世話役の天狗たちは、トラブルの元である一太郎を殺してしまおうと狙う。さらにある藩の藩士たちが、同じく一太郎を人質に取ろうとしていた。
ということで湯治のはずの旅が、大騒ぎの展開となっていく。最終的に解決したのは、山神の姫と一太郎が理解し合えたこと。同じ立場の一太郎だからこそ、姫の気持ちに寄り添うことができたという結末。
短編集も楽しいけれど、これだけキャラがそろっていると長編はさらに面白い。読むたびに登場人物たちにハマっていくこの物語は、中毒性の高い小説だと思う。昨日読み終えたばかりなのに、一太郎、佐助、そして仁吉にもう会いたくなっている。次も楽しみだなぁ。
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