『死」を感じ取る犬の物語
ボクは猫と暮らしてきた人生がほとんどだけれど、犬だって大好き。犬には猫とちがう愛らしさがあって、群れという仲間意識を共有できる。猫の場合は、彼や彼女が王様や女王様であって、人間は彼らの召使いだからねwww
だけど犬は順位づけを明確にすることで、共同体としての関係を築くことができる。それゆえに飼い主に忠実な友として一緒に過ごすことが可能。そんな犬を主人公にした小説を読んだ。
2021年 読書#19
『少年と犬』馳星周 著という小説。
今月の11日が来ると、東北の震災から10年となる。この小説は釜石で暮らしていた多聞(たもん)という名前の犬が起こした奇跡の物語。まだ1歳くらいのときあの震災がやってきた。そして飼い主だった高齢の女性は津波で命を落としてしまう。
ところが多聞は、なんと6年もの期間をかけて釜石から九州の熊本までやってきた。そして探していた人物と再会するという物語。犬がとてつもない距離を移動して、飼い主の元へ戻ったという実話はよくある。だけど多聞が会おうとしたのは、飼い主ではなく、光という名の少年だった。
そんな多聞の東北から九州までの旅を描いた物語。その時々に出会った人間が語り手となって章立てされている。
『男と犬』:中垣和正という窃盗団の運転手をしていた男が語り手。
『泥棒と犬』:中垣が関わった窃盗団の主犯格で、ミゲルという外国人が語り手。
『夫婦と犬』:40代の夫婦である中山大貴と妻の紗英が語り手。
『娼婦と犬』:美羽というデートクラブで働く女性が語り手。
「老人と犬』:弥一という末期癌に犯された老人が語り手。
『少年と犬』:最後が光という少年が登場する章で、語り手は光の父親。
多聞は震災前、飼い主と散歩に行く公園で幼い光と出会った。二人は互いに一目惚れのような関係で、いつも公園で遊んでいた。だから震災後、自分の飼い主が死んだことを悟った多聞は、光を探し求める。光の家族は釜石を離れ、熊本で新しい生活を始めていた。
なぜ多聞は光が熊本にいることを知ったのか? それは犬が持つ超能力としかいえない。ただ多聞には不思議な能力があった。
それは『死』を感じ取るということ。
光と再会するまでの語り手は、美羽をのぞいて多聞と暮らした直後に死んでいる。美羽は死んでいないけれど、多聞と出会ったのは同棲していた恋人を殺して埋めたあとだった。やはり誰もが『死』に取り憑かれている。
要するに多聞という犬を通じて、死に関わった複数の人物を描いたドラマということ。とにかく多聞は賢くて、勇気があって、出会った人間を癒してくれる。誰もが多聞を離そうとせず、ともに暮らすことを望んだ。だけど多聞の目的は光に再会することだった。
なぜなら震災のショックで、光は心を病んでいた。まったく話すことなく、自分の殻に閉じこもっている。そして当然ながら『死』が近づいていた。
多聞と再会した光は、一気に元気を取り戻す。心を病んでいたのが嘘のよう。だけどそこは熊本。そう、つまり再び大地震がこの家族に襲いかかった。
この先のストーリーについては、ボクは著者に共感できない。ここまで読み進めてきた感動が、一気に吹き飛んでしまった。これは人それぞれなので、このストーリーに感動する人もあるだろう。だけどボクはダメ。絶対に容認できない。
まだ昨年の5月に出版されたばかりの小説なので、ラストについてはあえて書かない。気になる人は本を手に取って欲しい。その事実を知ったことで、ボクの言わんとすることがわかってもらえるだろうと思う。
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