人間の心を封殺する世界
いまの日本は自由だといえる? きっとそうなんだろうと思う。
少なくとも誰かを意図的に傷つけることがなければ、言論の自由は守られている。第二次世界大戦中の日本のように、非国民と指摘されることを恐れる必要はないだろう。先週の『おちょやん』で起きたような出来事は、いまの日本では考えられない。
だけど海外に目を向けたら、国によっては現在でも同じような恐怖に直面している人はいるはず。ミャンマーでは、軍部の横暴を批判したデモに参加するだけで銃殺されてしまうんだから。
それほど全体主義というものは恐ろしい。そんな極限の世界を描いた小説を読んだ。
2021年 読書#27
『一九八四年』ジョージ・オーウェル著という小説。ボクが読んだのは2009年に出版された新訳版だけれど、最初の出版は1949年という終戦からまもない時代。その時間から1984年の世界について書いたものだから、SF小説ということになるんだろう。
といってもボクが記憶している1984年とはまったくちがう。世界は1950年に起きた核戦争によって、オセアニア、ユーラシア、イースタシアという3つの大国に分かれている。物語の舞台はアメリカ大陸とイングランドが一つになったオセアニア。
ちなみにユーラシアはロシアを中心としたヨーロッパ全域で、イースタシアは中国や日本を含むアジア地域の国家。3国は常に戦争状態で、どの国家も共産主義のような全体主義の世界になっている。
主人公はウィンストンというロンドン在住の男性。真理省記録局に勤めていることで、自分の暮らしている世界が虚構にまみれていることを自覚していた。だけど『思考警察』が人間の心まで管理していて、少しでも心に叛逆の精神を抱くだけで逮捕される。だから黙っているしかない。
テレスクリーンという双方向ヴィジョンが至るところに設置されていて、言葉だけでなく表情までチェックされる。とにかく人間として自由がまったくない状態で、結婚も子供を作るためだけのもの。自由恋愛や自由なセックスは死刑になる。
ウィンストンは同じ反逆思想を持つジュリアという女性と出会い、組織を誤魔化しながら恋愛関係を続ける。そしてこの世界を変えるであろう、ブラザー同盟というレジススタンス組織に参加する。だけどそれは罠だった。
結局は『思考警察』に逮捕されることになり、二人は想像を絶する拷問を受ける。だけどこの世界は殉職というものを容認しない。政府に反抗したまま銃殺されたなら、叛逆を意図する人間たちにヒーロ化されてしまうから。
だから拷問をしながら徹底的に思想改造を行う。その過程がマジで恐ろしい。そして自分の思想が清らかとなったと自覚したところで、ようやく銃殺される。それまで死ぬことさえ許されない。
悲劇でしかない物語なんだけれど、本を閉じて息が詰まるような小説の世界から抜け出したとき、自分が生きている世界を自覚して言い知れない安堵感を覚える作品だった。この小説は大勢のアーティストに影響を与えたそうで、その理由がわかるような気がする。
とにかく読んでみないとわからない世界。過去のソ連や文化大革命時の中国に近いけれど、その舞台がロンドンだというミスマッチ感によって不思議な気持ちになってしまう。強く心に残る物語だった。
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