誰もが幸せを求めて生きてる
どんな人も幸せでいたいと思って生きている。不幸になりたいと願って生きる人なんていないだろう。何らかの罪を犯して贖罪を求める人であっても、自分を罰することで心の平安を求めているはず。
ただ人によって『幸せ』はちがう。幸せの概念は絶対的なものではなく、それぞれの人にしかわからない。いや本人でさえ、自分にとっての『幸せ』を自覚していない場合もある。どちらにしても、他人では計り知れないということ。
それゆえ他人の人生がどんなものであっても、誰もが必死になってそこに『幸せ』を見つけようとしているはず。それゆえ自分の概念を押し付けてはいけない。そのことを心底理解することが、本当の思いやりというものかもしれないね。
そんなことを感じさせてくれる素晴らしい小説を読んだ。
2021年 読書#29
『心淋し川』西條奈加 著という小説。第164回直木賞受賞作で、ようやく読むことができた。このタイトルは(うらさびしがわ)と読む。
江戸時代の人情を描いた時代小説で、心淋し川という川が流れている心町(うらまち)が物語の舞台となっている。川といっても近くの大名屋敷からの生活排水となっているもので、淀んで汚く異臭までする。
そしてその川と同じく心町に暮らす人は、吹き溜まりのような人生の末にこの貧しい町へたどりついている。要するにわけありの人ばかりが暮らしている。そんな人たちの生活を描いた短編集。
『心淋し川』
『閨仏(ねやぼとけ)』
『はじめましょ』
『冬虫夏草』
『明けぬ里』
『灰の男』
という6つの短編。どれも素敵な物語で、感動の涙なしでは読み終えられない。まだ新しく、かつ直木賞作品なのでネタバレはやめておこう。これから読む人の楽しみを奪ってはいけないからね。
この町を出たいけれど、好いた男が遠方に行ってしまう若い女性。不細工ゆえに妾にしてもらったけれど、なんと四人もの妾と同居している女性。素行の悪さで苦労したけれど、ようやくこの町で料理屋を始めた男性。娼婦だったけれどある男性に身請けしてもらって自由となった女性。
そんな人たちの心の重荷と、幸せへの強い希求が描かれている。最初の5つに共通点はない。この心町の住人だというだけ。だけどそのすべてに関わってくる男性がいる。心町の長屋の差配をしている茂十という高齢の男性。
当然ながらこの茂十もわけあり。彼の物語は最後の『灰の男』という作品で、驚くような事実が明かされる。彼の心の内を思うと、涙なしで読めなかった。同時にこの作品で、最初の5つの物語に登場した人物たちのその後がわかる。
それがまたいいんだよね。その人たちなりの『幸せ』を手にした姿を見ることができて、さらに感動のうれし涙を拭うことになった。本当に素敵な小説。誰もが自分なりに頑張っていけばいい。そうすれば幸せに近づけるはず。そんな勇気をもらえる愛すべき物語だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする