透明人間の真の恐怖とは?
『透明人間』という古典的なSF小説がある。著者はH.G.ウェルズ。その物語を原作として映画やドラマが作られているが、そんな作品のなかの最新作を観た。
2021年 映画#62
『透明人間』(原題:The Invisible Man)という2020年のアメリカ・オーストラリアの合作映画。原作がしっかりしているせいか、想像していたより見応えのある作品だった。まだ新しい作品なので、ネタバレを知りたくない人はご注意を。
主人公はセシリアという女性。夫のエイドリアンは異常な束縛をする人間で、ほぼ狂人だといってもいい。光学研究者でもあり、かなりの資産家。豪華な邸宅には最新のセキュリティ装置が完備されていて、セシリアは自由に行動することができない。
夫に睡眠薬を仕込んだセシリアは、妹を頼ってその家を逃げ出す。そして親友で刑事でもあるジェームズの家で身を隠す。やがて夫のエイドリアンが自殺したことを知り、多額の資産を相続することになった。
夫の精神的なDVのせいで強迫神経症となっていたセシリア。だけど夫の死によって回復していく。ところが少しずつ変なことが起きる。夫の視線を感じたり、誰もいないはずの場所に人がいた形跡が残されていた。
そう、その正体は光学研究者である夫のエイドリアン。全身を包むカメラ付きのスーツを身につけることで透明人間となった。そしてセシリアへの復讐が開始される。親友のジェームズには大学進学を目指している娘がいる。その娘に暴行を加えて、セシリアがやったように仕向けた。
セシリアの周囲でトラブルが起き、全て彼女の責任にされてしまう。やがて夫が自殺を偽装して復讐していたことを知り、セシリアは妹に助けを求める。ところがその妹も公衆の面前で透明人間によって殺害されてしまう。犯人はセシリアにしか見えない。彼女は殺人犯として逮捕されてしまう。
エイドリアンがここまでセシリアにつきまとうのは、彼女が妊娠していたから。避妊薬を飲んで妊娠しないように注意していたけれど、エイドリアンはこっそりと薬をすり替えていたから妊娠した。エイドリアンは透明人間として刑務所に侵入すると、殺人犯として刑務所で暮らすか、自分の元に戻って子供を育てるかをセシリアに迫る。
ここからのセシリアの逆襲は見もの。誰も信じなかった透明人間の存在を他人に認知させることで、自分の無実を証明する。ところがエイドリアンも自分が無罪となるための手を打っていた。こうなるとエイドリアンを殺すしかない。セシリアは決心して、夫の元へ戻るふりをして自宅に潜り込む。
最終的なオチとしては、セシリアがエイドリアンを殺す。彼女が透明人間となることで、防犯カメラには自殺にしか見えない映像が残される。つまりセシリアにとって自分を苦しめてきた夫は死に、彼の財産を堂々と自分のものにすることができた。
ハッピーエンドのように思えるラストシーン。だけどボクはそんな平和なシーンに鳥肌が立った。もしかしたら本物のサイコパスは主人公のセシリアではないかと感じたから。被害者のように見せかけて、何もかもを夫から奪う計画だったのでは? このラストシーンはそんなことを感じさせられる。
この映画のタイトルである『透明人間』とは、映画のなかではずっと隠されているセシリアの悪魔性を象徴しているのでは? そう思うだけで、透明人間の真の恐怖に気づくことになる。ちょっとエグいけれど、なかなかよくできた作品だと思う。
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