善も悪も飲み込んだ炎
はるか昔の出来事だとはいえ、実際に起きた災害を物語にするのは難しい。どこに視点を置くかによって、印象が大きく左右されてしまう。そして災害という動かしがたい事実によって、物語に制限がかけられてしまうから。
といってもどうすれば正解なのかわからない。そんな複雑な印象を抱く映画を観た。
2021年 映画#156
『ポンペイ』(原題:Pompeii)という2014年のアメリカ映画。西暦79年に起きたヴェスヴィオ火山の噴火で壊滅したポンペイを描いた作品。いまでいえば、イタリアのナポリの近郊になる。
さてこの悲惨な火山の噴火をどのような映画にするのか? かなり興味津々で観た。物語のスタートは西暦69年のイタリア北部が舞台。ローマ帝国の支配に抵抗したケルト人の反乱制圧で始まる。まさに虐殺で、ケルトの騎馬民族はことごとく皆殺しにされた。その虐殺を指揮したのがコルブスというローマの上院議員だった。
唯一生き残ったのがマイロという少年。やがてマイロは奴隷として捕まり、無敵のグラディエーターとして成人する。グラディエーターというのは競技場で殺し合いをする人たち。それを見て楽しむという、ローマ人の奢りを象徴したような競技。
マイロはその強さを買われ、79年にポンペイへ連れてこられた。このマイロがこの作品の主人公。旅の途中でローマから戻るカッシアという名家の女性と知り合う。カッシアはポンペイの有力者の娘。
ということでメンバーがそろう。当時ではあり得ない名家の娘と奴隷との恋。そしてローマ帝国からポンペイへ派遣されたコルブスに対する、マイロの復讐が物語の見どころとなる。ここまではなかなか良かった。
登場人物たちの人間関係がうまく機能していて、ハラハラしながらもマイロに感情移入できた。同時に火山の噴火の予兆があり、ピアース・ブロスナンが主演した『ダンデス・ピーク』という火山の噴火を描いた映画を思い出した。
そして競技場でマイロがコルブスの陰謀で殺されそうになったとき、ついにヴェスヴィオ火山が噴火する。ここからの映像は迫力のあるCGで、かなり見応えがあった。コルブスに幽閉されたカッシアを助けにいくマイロのアクションシーンも最高だった。
さてどういったエンディングになるのか。予想したとおり、マイロは家族を殺された復讐を果たす。そして迫り来る火砕流から逃げるため、カッシアを乗せた馬で疾走する。そして迎えたのが先ほどの写真のシーン。
結局、この二人も炎に飲み込まれて死んでしまう。善も悪も、愛も憎しみも火山の炎によって焼き尽くされてしまうというエンディング。それまで登場してきた主要人物のすべてが死んでしまう。
さすがにこのエンディグには口あんぐりとなった。それまでの緊張やドキドキをどうしてくれるねん? マジでそう叫びたくなった。カタルシスのかけらもない。せめて登場人物の一人くらいは生き残るという発想はなかったんだろうか。
たしかに大勢の人が一瞬で死んでいる。2000人ほどの死者があったそう。だけどポンペイには2万人が住んでいて、事前に避難した人の多くが助かっている。なんらかの事情で火山近くにいた人は、逃げる余裕がなかったということらしい。
いい方は悪いけれど、面倒になって全員が死んだことにしてしまった、という印象が抜けない。それまでの人間物語を否定されたようで、映画を観ている人を置き去りにしてしまう終わり方だった。途中までいい映画だったんだけれどなぁ。
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