凄まじい一人語りに釘付け
小説を読むとき、ボクは物語を脳内で映像化する。だから映画を観ているのと同じような感覚で読む。外国の小説ならハリウッド俳優を思い浮かべ、日本の作品ならピッタリの俳優さんを想像する。
読了したばかりの小説は。アメリカの物語。主人公は66歳の女性。ボクが思い浮かべたのは、キャシー・ベイツだった。
2021年 読書#107
『ドロレス・クレイボーン』スティーブン・キング著という小説。主人公の名前がそのままタイトルとなった作品。この小説は形式がユニーク。主人公の一人称で語られているのは普通。だけど質問に答えるという、一人語りの形式になっている。
文庫本で360ページほどある小説だけれど、一度も行間が開かない。ず〜っと最後まで文章が続いている。ラストでわかるけれど、昔のレープレコーダーで10本分の内容をドロレスは語っている。だから続きを読む場合、どこまで読んだか記憶しておかなければいけない。
ドロレスの仕事は家政婦。18歳のころからヴェラという大金持ちの女性の別荘で働いていた。昔はヴェラにも家族がいたけれど、年老いてからはその別荘で一人暮らしをしていた。だからドロレスとは50年近いつきあいになる。
ある日、ヴェラが変死体で発見される。疑われたのがそのとき一緒にいたドロレス。その結果、警察の取調室で尋問を受けることになった。彼女はヴェラを殺していないと答えた。ただし29年前に事故死したことになっている夫のジョージを殺した、と告白した。
ドロレスがヴェラを殺していないことを知ってもらうためには、その事実を話す必要があったから。そこから彼女の一人語りが始まる。夫との出会い、ヴェラに家政婦として採用された経緯、そして長男、長女、次男のことについて。
とにかく夫のジョージはゲス野郎。15歳になった長女のセリーナに手を出そうとしたり、ドロレスが必死になって子供たちのために貯金した預金を、銀行を騙すことで自分の名義に変えてしまった。子供たちの将来のために夫から逃げようと思っていたけれど、あてにしていたお金がない。
ドロレスは子供のために夫を殺すことを決断する。それを後押ししてくれたのがヴェラだった。実は彼女も自分の夫の事故死に関与していた。「子供のために、時には性悪女になる必要がある」と言われたドロレスは、皆既日食の日に夫の事故死を偽装する。そして見事に成功させる。
ただしジョージは簡単に死んでくれなかった。古い井戸に落とす計画は成功したけれど、瀕死の状態で這い上がってこようとした。だからドロレスは自分の手で夫を殺すしかなかった。その罪悪感は彼女につきまとっていた。それはヴェラも同じで、二人は同じ重荷を背負った同志だった。それゆえドロレスがヴェラを殺すなんてありえない。
二人は複雑な関係だったけれど、心の奥底で理解し合っていた。最終的にドロレスの無罪は認められる。それどころか、夫を殺した告白についても、尋問した警察官たちは口を閉ざした。物語を読めばわかるけれど、彼女を起訴する気にはなれないだろう、
ヴェラは莫大な遺産をドロレスに残した。だけど彼女はそのすべてを慈善団体に寄付する。そんなドロレスはめちゃカッコいい。政治家、そして著述家として成功している長男と長女は、彼女の犠牲によって人生を開くことができたから。とにかく彼女の一人語りに釘付けになり、圧倒されっぱなしの物語だった。
このドロレスを演じられるとしたら、キャシー・ベイツしかいない。そう思って調べてみたらビックリ!
1995年に『黙秘』というタイトルで映画化されていて、ドロレスを演じていたのはなんとキャシー・ベイツだった。ボクの頭にはスティーブン・キング繋がりで、『ミザリー』で主演した彼女が思い浮かんだんだと思う。この映画のキャストを決めた人も同じかな?
だけど『ミザリー』のアニーと、『黙秘』のドロレスはまったくちがうタイプの人物。だけどキャシー・ベイツなら完璧に演じているはず。機会があったらぜひ映画も観たいと思う。
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