人種差別より気になったこと
アメリカにおいて人種差別を描いた映画は数多くある。そのほとんどが過去に起きた事実を元にしたもの。だからといって過去の出来事として描かれているのではない。いまだに有色人種に対する差別が根強く残っていることで、新しい作品を作らざるを得ないんだと思う。とても悲しいことだよね。
今日観た作品も、そんな過去を描いた作品。主人公はマーティン・ルーサー・キング・ジュニアという、黒人差別問題を取り上げる際には欠かすことのできない人物。このキング牧師の活動を描いた映画で、とても素晴らしい作品だった。その当時のことを知らない若い人たちに、絶対に観てほしいと感じた。
ただボクはこの映画に感動しつつも、別のことが気になって仕方なかった。
2021年 映画#168
『グローリー/明日への行進』(原題: Selma)という2014年のアメリカ映画。といってもキング牧師役を含めて、主要人物の4人をイギリス俳優が演じている。さすがシェイクスピアの国だよね。イギリス俳優好きのボクにはストライクの作品。
アメリカ憲法で認められている国民の選挙権。なのに黒人は投票できない。もし投票のために南部の役所へ登録に行っても、適当な理由をつけて追い返されるか、申請をしたことを実名入りで新聞に掲載される。それはその黒人にとって、仕事を失うことと同じ。
黒人の選挙権を求めて、1965年にアラバマ州のセルマからモンゴメリーへの抗議の行進が実施された。1回目の行進のときには多数の死傷者を出している。ところがその惨禍がテレビで放映されたことで、多くの白人がデモに参加することになった。この映画の原題がセルマとなっているのは、このデモを描いたものだから。
結果として当時のジョンソン大統領は黒人の選挙権を認めた法案を成立させる。非暴力を貫いたキング牧師たちの行動が世論を動かした。この3年後にキング牧師は暗殺されるけれど、彼がいなければこの法案の成立はさらに遅れたことだろう。
ところがこうした人種問題以外に、ボクはこの映画に興味を持った。人間としてのキング牧師が赤裸々に描かれていたから。マルコムXとの確執も取り上げられていた。そしてボクは知らなかったけれど、キング牧師は女性問題もあったらしい。
彼の抗議行動を抑えるため、盗聴していたFBIが女性関係をつかんだ。そのことで妻のコレッタとの関係が一時的に危機を迎えたことも映像化されていた。歴史上の人物の正の面だけでなく、負の面にも光を当てていたことに感動した。
そして最も驚いたのがキング牧師を演じたデヴィッド・オイェロウォの見事な演技。なぜ驚いたかといえば、トム・クルーズが主演した『アウトロー』という映画で刑事役を演じた彼がイマイチだったから。あの映画の雰囲気を台無しにしていると感じたほど。
ところがこの映画ではまるで別人。どうみても本物のキング牧師を見ているようだった。話し方や歩き方の癖なんか見事だった。『アウトロー』からわずか2年後の作品なのに、同じ俳優さんだとは思えないほどうまい。さすがイギリス俳優という演技。
これはもしかしたら、監督との相性なのかな? この映画の監督はエイヴァ・マリー・デュヴァーネイという黒人の女性監督。おそらく彼女の演出との相性が良かったのかもしれないね。ということは元々は才能のある俳優さんなんだと思う。それを知ることができて良かったと感じる作品だった。
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