残虐な結末に爽快感を覚えた
原作と映画の一騎打ちの場合、ボクは原作に軍配を上げることが多い。原作が有利なのは、情報量が映画よりはるかに多いから。それゆえ登場人物の人生が詳細に描かれていて、より深く物語の世界に没入できる。
ところが原作を越えたと思う映画がある。その映画を観たのはかなり以前のこと。印象に強く残っていたので、いつか原作を読もうと決めていた。その原作がつい先日に紹介したスティーブン・キングの『秘密の窓、秘密の庭』という作品。『ランゴリアーズ』という小説に収録されている。
2021年 映画#173
『シークレット・ウインドウ』(原題:Secret Window)という2004年のアメリカ映画。写真のジョニー・デップが主演している。久しぶりにこの映画を観たけれど、原作と比べたことで面白さが増した。そして映画の結末に爽快感を覚え、つい拍手をしてしまった。メチャ残虐なんだけれど。
ジョニー・デップ演じるモートは作家。妻のエイミーとは離婚協議中。妻の浮気現場に乱入したことがきっかけで別居。モートは自宅を離れて郊外の別荘で暮らしていた。そんなある日、ジョン・シューターと名乗る男がやってくる。
シューターによると、彼の作品をモートが盗作したとのこと。最初は相手にしなかったけれど、やがてシューターはストーカー化してくる。モートの飼い犬を殺し(原作は飼い猫)て脅迫してくる。たしかにシューターが持ってきたのは、ほぼ同じ小説だった。
だけどシューターが書いたという時期の2年前に、モートはその作品を完成している。そのことを証明できる雑誌が自宅にあるので見せる、とシューターに歩み寄った。シューターは3日以内に証拠を見せろと迫る。さもないと後悔することになると。
モートは証拠の雑誌を手配しながらも、シューターの逮捕に向けて行動する。二人が話していたときの目撃者に証言してもらうよう、弁護士に調査を依頼した。原作では別荘の管理人やモートのエージェントだったけれど。
ところが雑誌が置いてある自宅は誰かに放火されて消失。弁護士と目撃者は遺体で発見された。シューターの狂気を恐れたモーターは、雑誌を発行している出版社にバックナンバーを送ってもらう。ところがそれを手にしたとき、自分の小説が掲載されているページだけ切り取られていた。
この段階で種明かしになる。シューターとモートは同一人物。シューターは妻に激怒したモートが創造した別人格の自分だった。統合失調症と多重人格を同時に発症したという状態だろう。
まずここで映画は原作からアプローチを変えている。原作ではモートが学生時代に一度だけ盗作をやったことがあった。小説家として売れない時代で、同じ学校で学んていた優秀な学生の小説を自分の名前で投稿して、なんと出版されてしまった。その罪悪感がやがてシューターという怪物を創造したという設定。
だけど映画は、過去の盗作事件は妻との会話で触れているだけ。モートが狂気へと至ったのは、妻との離婚ということにフォーカスしている。映画としてはこのほうがわかりやすいということだろう。ボクもそれでいいと思った。
その流れで結末がちがってくる。原作では妻を殺そうとしがシューター(別人格のモート)が、心配して別荘を訪れた火災保険の調査員によって射殺されて終わる。過去の罪悪感と離婚で苦しんだ末、別人格の自分が暴走した。その結果として、殺されてしまったというオチ。
ところが映画はちがう。モートは精神的に抹殺されてしまい、彼の肉体はシューターそのものとなった。そして妻も、そして妻の再婚相手までも殺してしまう。もちろん弁護士と目撃者を殺したもの彼。妻の遺体は別荘の庭に埋めたので見つからない。
ラストシーンは保安官が別荘にやってきて、「遺体が見つかったら逮捕してやる」とモートに警告する。だけどモートは素知らぬ顔で笑いながらトウモロコシを食べているというエンディング。このジョニー・デップがぶっ飛んでいてカッコいい。
モートに感情移入して観ているせいか、復讐をやり遂げた彼に爽快感を覚えてしまった。これこそ映画マジックだよね。冷静に考えたらサイコパスの恐ろしい人間なんだけれど、彼が殺されなかったことにホッとしている。ボクは映画の結末のほうが圧倒的にいいと思った作品だった。
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