誰に手紙を書き続けたの?
ボクは気に入った映画に原作の小説がある場合、あるいは気に入った小説が映画化されている場合、どちらの作品にも触れるようにしている。その物語の世界観をより深く理解したいのが理由。それ以外に原作と映画のちがいを直視することで、物語の構成について学べることが多いから。
大抵は原作が勝利することが多い。映画は時間的な尺の制限があるので、どうしても物語を深く掘り下げることができない。ただ映画によってはそのハンデをプラスに変えることで、原作を超える物語になっていることがある。そうした作品に出会えるから、この比較はやめられない。
ある映画を観てとても感動した。そして原作を読んだ。ところがこれまた素晴らしい。映画では動画から伝わってくるメッセージに感動して、原作では文章でしか表せないものがビンビンと伝わってきた。
2022年 読書#114
『ウォールフラワー』スティーブン・チョボスキー著という小説。この本は映画の公開に合わせて出版された新版らしく、右端が主人公のチャーリーでローガン・ラーマン、中央はチャーリーが恋をするサムでエマ・ワトソン、そして左端がサムの兄でありチャーリーの親友となるパトリックで、エズラ・ミラーが演じている。
映画の感想でも書いたけれど、この3人の関係が素敵すぎる。サムとパトリックは兄妹と言っても、両親が再婚の連れ子なので血縁はない。でもパトリックはゲイなので二人は姉妹のような雰囲気。
主人公のチャーリーは二人より年下で、友達のいない孤独な少年だった。だけど二人と出会ったことで、高校生活を輝かしい思い出に満ちた時期にすることができた。サムには恋人がいてチャーリーは辛い思いをするけれど、最終的に二人は恋仲になる。原作では微妙だったけど。
この物語には大きな『秘密』が仕込まれている。それはチャーリーが精神科に通わなければいけないほどのトラウマを抱えていること。物語りの冒頭では、一緒に暮らしていたヘレンという叔母が交通事故で死んだことが原因とされている。なぜならチャーリーの誕生日プレゼントを買うために出かけ、それで交通事故で死んでしまったから。チャーリーはヘレン伯母が好きだったので、彼女の死に責任を感じていた。
ところがトラウマの理由は別にあった。物語の後半になってそれがわかる。チャーリーはヘレン叔母から性的虐待を受けていた。その記憶を封じ込めていたので、チャーリーの両親もその恐ろしい事実を知らなかった。彼が精神的に不安定なのは、幼いころの性的虐待があったから。
そんなチャーリーを癒してくれたのが、サムとパトリックの兄妹。映画と原作は少し内容がちがう。ところが最初に書いたように、映画としても、そして小説としても文句のつけようがないほど素晴らしい。
なぜなら映画の監督、そして脚本は、原作者のスティーブン・チョボスキーだったから。著者自らが脚本を書いてメガホンを取っている。だからどちらの作品にも、著者のメッセージが込められている。ボクはどちらの作品からも、少しニュアンスのちがう素敵な感動をもらうことができた。
原作で素敵なのは物語の構成。チャーリーが謎の人物に書いている手紙で構成されている。手紙を受け取っているのが誰なのかは、最後まで明かされない。著者へのインタビューによると、読者で好きに想像して欲しいとのこと。
チャーリーが本音を言える人物って誰だろう? 原作に登場していると言っている人もいる。ボクはわからなかったけれど、謎の人物に書かれた手紙を読み続けることで、チャーリーの心情世界をストレートに感じることができた。とても素敵な読書体験だったなぁ。
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