ブレイキング・バッド ~美しくも哀しきピカレスク
「ブレイキング・バッド」を観終わった。エンターテインメントではなく、深い感動を味わいたい方にこそ、このドラマをお勧めしたい。凡百のギャング映画など鎧袖一触、緻密なストーリー展開と伏線回収の手際の良さ、俳優陣の演技力と巧みな台詞廻し、そして誰もが納得するであろうラスト。
あなたが癌を宣告されて、余命数ヶ月だと言われたら、どうしますか?
主人公のウォルター・ホワイトは51歳の冴えない化学教師。預金もそれほどなく、カツカツの生活を送りながら、妻と障碍を抱える息子を養っている。そんなときに、妻が突然の妊娠。これからさらに金がかかるだろう。そんなときに癌を宣告されたウォルターがとった道は。。
化学の知識を活かし、メタンフェタミンを作ることだった。
だがメタンフェタミンを作る知識はあっても、材料を手に入れなければならない。道具も必要だ。そして作れたとしても、今度はそれを売りさばかねばならない。
ウォルターは弟子のジェシーとともに、ときにはコミカルな失敗を繰り返しつつも、売りさばくことに何とか成功する。
作り、売り、悪行を覆い隠すことを続けるうちに、数多くの犠牲を払っていくことになる。ウォルターとジェシーは大金を手にいれ、メタンフェタミン界の帝王となる。しかしその頃には死屍累々。ウォルターとジェシーのこころは蝕まれていく。
作中、ウォルターは何度もこう言う。「こんなはずじゃなかった。家族のためにやったことなんだ!」
ウォルターの使った偽名はハイゼンベルグ。彼の不確定な将来を示唆していたのだろうか。
しかし最終話でウォルターは妻のスカイラーに本心を吐露する。この場面こそが、このドラマのクライマックスではないか。
決して明るく楽しいドラマではないし、誰が観ても面白いというわけでもない。若者にもわかってはもらえないだろう。でも、人生のつらさと苦しさを深く感じ、それでも生きていこうと決めたある年代以降の男性だったら、きっと何か感じるものがあるはずだ。