ミッドライフ・クライシス
アメリカのドラマを観ていると、「ミッドライフ・クライシス(中年の危機)」という言葉がけっこう出てくる。これはどういうものなのか。
30代から50代にかけて、人生でそれなりに成功し、社会的にも認められてきて、家族や友人関係も上手くいっている。しかし若いことに比べると体力や容貌は衰え、夢を追いかけてチャレンジすることもなく、人生の先が見えてきてしまう。
このような状態の自分に我慢ができず、なんとか打開したくなる。
具体的には、体力や容貌を戻そうとしてジムに通いはじめたり、髪の毛を染めたり。また会社を辞めて自分で事業を興したり、趣味の世界に没頭したり。
悪い例では、酒やドラッグに溺れて現実逃避しようとしたり、出会い系で女の子とイロイロしたり。
なぜこうなるのかというと、
・若いうちは、社会の中での自分を実現させていこうとして頑張る。人生を振り返る余裕はない。
・中年になると、「今までの人生は何だったのか」と見つめ直すことになり、今度は「自己の実現」を目指していこうとする。
というわけだ。
ユングによれば、これは自然な心の発達の流れであり、特に問題はないとする。
しかし、多くの場合において私たちは中年を迎えても働きつづけなければいけないし、社会的地位を捨てることもできない。いっぽうで、自分の人生を取り戻したい、好きに生きたいという願望が強くなってくる。この葛藤の中で、出口の見えない状態(夜の海の航海)が続く。
というわけで、人生の前半でそれなりに努力して自分なりに築き上げたものがある場合、中年の危機に陥りやすい。
ちなみに、特になにかを努力して成し遂げたわけでもなかったり、あるいは仕事でいっぱいいっぱいで他のことを考える余裕がなかったりといった場合は、中年の危機には陥りにくいようだ。
さて、陥ってしまったらどうすればよいのか。
もちろん、良い方向に向かっているのなら問題はない。仕事や家庭はしっかりキープしたうえで、健全な趣味に走るのならば。
しかし、それでは満足できないからこそ、「危機」なのである。
人生の前半をしっかり目的意識を持って生きてきた人ほど、健全であれ不健全であれ、「自分の人生に意味を持たせたい」と思うはずだ。不健全な方向に走りそうになった場合、「それが自分の人生を豊かにするのか?」と、まずは考えてみる。それだけで、かなりの抑止力となるはずなのだ。
酒やドラッグ、援助交際などに走る中年期の男性は、かなりのストレスが溜まっているのだろう。
しかし欲望を抑えるのではなく、「それを行うことが人生にプラスとなるのか」と考えることが、それまでの人生において成功してきた人ほど、強い抑止力として働く。
不健全なことをして、「今まで築いたものが失われてもいいのか?」と言って諌める人がいる。しかし、それではダメだ。危機に陥っている人は、ある意味「失われてもいい」と思っているのだから。
ボディビルは他のスポーツと違い、かなり高齢まで筋肉は発達をし続ける。多くのスポーツは20代をピークとして30代から緩やかにパフォーマンスが低下していき、自分の限界を感じ、早々に諦めることができる。だがボディビルの場合、40代でもソコソコやれるわけだ。
しかしそこがかえって落とし穴で、40代になって、いざこれまでのようには発達しない。今後もこれまでの自分を超えることはできないと痛感させられると、それがちょうど年齢的にミッドライフ・クライシスと重なってしまう。これは問題だ。
でも大丈夫。身体のほうは先が見えていても、脳はいくらでも鍛えることができるからだ。知識を増やし、これまでの自分を超えていくことが、いつまでも可能となる。それは仕事に活かすこともできるし、何よりも大きな自信となって自分を支えてくれるだろう。