父娘物語 その8
いろいろな神様をお祀りしているので、一度にいろいろなお願いが出来てしまう。
入口で貰ったスタンプラリーを制覇すると、粋なお土産物をくれる。
腕の中から見える風景は、天国かと見間違えるばかりの絶景。
そんなコストパフォーマンスに優れた素敵な観音様を後にして、俺たちは駅へと向かった。
携帯で時刻表を調べると、車を置いてある駅まで行く電車に、走れば間に合うかなって時間。
手を振って走る仕草で問いかけると、娘は疲れを滲ませた顔を小さく横に振る。
俺もだ。
額にシワを寄せながら応えたけど、
ホントは、彼女と過ごすことが出来る残り少ない時間を、少しでも増やしたいなって思ったから。
娘は何が気になるのか、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと落ち着かない。
あまり人が歩かない道には、彼女の興味を引くものが一杯あるのだろう。
それでも、たまに肩を並べて歩いてくれる。
内容なんか覚えていない位、くだらない話をしたのだと思う。
でも、楽しいかったな。
内房線の上に架かる橋を越えようとしたとき、さっき調べた電車が通り過て行った。
「行っちゃったな」娘は笑いながら乱暴な言葉で呟いた。
次の電車は一時間後。
駅の周りにはお店も無くて、
ホームにぽつんと建っていた待合室でぐったりと過ごす。
二人っきりの空間に、夏の匂いが少しだけ残った風が通り過ぎた。
疲れて黙りこむ俺たちには会話すら無かったけど、
気まずさも感じない自然な空気が嬉しかった。
タイミングが良かったんだろうな。
娘が優しかったんだろうと思う。
そして、
最後になるだろうっなって、寂しい予感がした。
珍しく携帯を操作してない手持ちぶさたそうな娘に、
なぁ、飯食おうぜ。
まだお昼を過ぎたばかりの、お腹を空かせた娘に言うと、
娘はコクリと、子どものような顔で頷いた。
ずっと昔に行った事のある、
漁師さんがやってた定食屋は、
いつの間にかお風呂まで併設する立派な複合施設に変わっていた。
でも料理の内容と値段は昔のままで、
娘は満足そうに、並べられた料理に頷く。
俺は、娘が魚好きだってことを初めて知って、
俺は、また少し嬉しくなった。