千葉の頂点を極める その1
千葉の頂点を極める。
なんだか青春をスポーツにかける若者みたいでカッコ良いじゃないか。
いや何もこの歳になってトップを狙う訳じゃない。ただ千葉のトンがってる所に行ってみようじゃないか、って話。
あの頃の気持ちを取り戻しに(笑)
過去二回に渡るチャレンジはことごとくはじき返された。
手の届きそうな距離なのに届かない。
でも、俺はあきらめない。あの頃、何度倒されたって立ち上がることができたのだから。
千葉県の地図を見て欲しい。北から流れてきた利根川から江戸川が分岐する地点。そう、ちょうどチーバ君の鼻の先、黒い部分だ。茨城県との境界が破線で引いてあるはず。
ほら、その部分を拡大して。ちょうど先端を頂点に約一キロ三方の三角地帯が茨城県の領土となっていることに気がついたと思う。
誰もがそこは千葉県だと思うはずなのに、謎の茨城地帯。
これは由々しき事態である。千葉県侵出を目論む茨城が築いた秘密基地でもあるのではないか。
是が非でも行って、この目で確認せねばならぬ、そう決めた。
一度目のチャレンジは梅雨の頃、陸路からのアプローチだった。
先ずは灰色の曇り空に白鷺が舞い降りたような関宿城に入る。奇しくもその日は千葉県民の日で、我々の心の拠り所である千葉県生誕を祝う県民で溢れていた。間違いなくそこは我々千葉の民の最前線基地。
まずは天守閣へと登り、敵情を視察する。薄曇りの中、右側から流れてくる利根川から左手に江戸川が分かれている。見事な三角洲。
しかし、やはり奴等は千葉県民ではないな。なによりの証拠に県民の全てが仕事を休み、その祝いを心よりしなければならないこの日に、何を造っているのか大きなトラックがあくせくと出入りしている。
怪しい。
トラックの行き交う砂利道には、先の作業地までの間に幾つかの警備員の詰める検問所がある。ここから行くのは難しいな。
しかし、このセキュリティ、いよいよ怪しい。
次に利根川の土手に沿ってのアプローチを試みるが、先日の豪雨で溜まった大きな水溜まりの為に前進不可。
最後に残った江戸川沿いからのアプローチに最後のチャンスをかけた。途中にあった「スズメバチに注意」の看板に怯む心を抑えて雑木林を進む。しばらく歩くと、今度は「まむしに注意」。そしていよいよ、人の手の入っていない雑草の生い茂る荒れ地となる。自分の背丈よりも高い藪に阻まれて、ついに方向も行き先をも見失った。
そして、いかにも蛇が出そうな雰囲気に心も折れる。元来た道をすごすごと引き上げた。
蛇はいかん。
次は夏、江戸川を遡ってのチャレンジだ。関宿水門の上流でゴムボートを膨らませて川面へと浮かべる。水門に吸い込まれていく圧倒的な水の勢いに抗いながら約一キロの遡上を開始。
上流へと漕ぎ出したその瞬間、何故かボキリとオールが折れた。
同時に俺の心も折れる。推進力を失ったボートは、急速に流れを集める水門へと流されていく。なんとか残された片方のオールを操り、激流を乗り切った。しかしその後に待ち受けていた浅瀬の鋭利な岩に腹を切り裂かれたボート。大きな穴が空き、急速に縮んでいく。ヨタヨタと、しかし大慌てで岸にたどり着いた。
沈没はいかん。
厳重な警備と、幾重にも取り巻かれた強固な自然の要塞。
そして、何やら張り巡らされているであろう結界。
やはり、そこには巧妙に隠された何かがあるのかもしれない。
未だ辿り着けない茨城県領の三角地帯。
でも草木が枯れ水の細る冬こそは、そこに行くことのできる最大のチャンスだろう。
テンカウントはまだ聞かない。
ボクシングと同じくチャンスは三度まであるのだから。
ふと気がついた。
チーバ君の鼻先が黒いのは、そこが千葉県じゃなくて茨城県だからなんだな(笑)