夢のつづき
運転に飽きてラジオのスイッチを入れた。
少しだけ開けた窓から入ってくる東北の冷たい空気に合わせて、懐かしい歌声が流れてくる。
それは若い頃、僕の拠り所となるような
愛だとか夢だとか、今聞いたら顔が赤くなってしまうような歌を聞かせてくれたアーティストの声で、
でも、その歌詞には全く聞き覚えが無かった。
それは、産まれてきた息子や娘に対する愛の溢れた曲で、
いつ以来だろうか、全くそのアーティストを聞かなくなってからの曲なのだろう。
ふと、先日入籍したと長男から連絡が来たことを思い出した。
僕は、どうしてもその写真がもう一度見たくなって車を停める。
写真の中の二人は、嬉しそうに婚姻届を持って微笑んでいた。
今の今まで、慌ただしく仕事に追われて返信もしていないことに気づく。
こいつが産まれたとき、
果たして俺はちゃんと育てて行かれるんだろうかと不安に思った。
こうして二十数年が過ぎ、
今考えれば軽くはなかった責任を、少しだけ果たしたのかな、とも思う。
同時に、彼から貰ったたくさんの想い出がとても貴重なものに思えて、
僕は、車を目的地よりかなり手前で乗り捨てて電車で行くことに決めた。
どうしても、
彼の写真をサカナにビールで乾杯をしながらおめでとうのメールを書かねばならない。
そして
久しぶりに、大好きだったそのアーティストの新しいアルバムを買いに行くために。