笑うに笑えないけれど、笑ってしまう
久しぶりに歩いていて暖かいと感じる気候でした。穏やかで風がなく、薄い雲越しに太陽の光が差し込んでいるので春を感じました。
土曜日ですから、六甲山ケーブルに向かうバスは満員でした。今日くらいの気温なら、六甲山牧場でのんびりするのも気持ちいいだろうなぁ。
さて読みながら笑いが止まらなかった本の紹介です。昨日の午後から読み始めたのですが、就寝前まで一気に読んでしまいました。一人でクスクス笑いながらです。
『夢を売る男』百田尚樹 著という本です。
すっかり百田ワールドにハマってしまった私です。この本はいわゆる暴露本です。出版業会の裏側を赤裸々に描いた小説でして、百田さんが考えておられる小説論を物語にした作品でもあります。その根本的な考えは以前から知っていましたが、その豊富な知識はこの本を書くためのものだったのがよくわかりました。
主人公は丸栄社という出版社の敏腕編集者です。この出版社は詐欺まがいの商売をしている会社でして、そのターゲットは自分の本を出版したくてウズウズしている人たちです。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦……。そんな人たちがジョイント・プレス方式という詐欺のカモになります。
強烈な自己顕示欲や自尊心を刺激されたカモたちは、様々な方法で出版を持ちかけられます。ところが現在は出版不況。本を出してもまず売れません。有名作家の本でさえ初版で終わるのがほとんどですから、名もない新人の本が売れるわけがありません。
ところがそうした欲に取り憑かれている人たちは、出版費用を折半してくれたら本を出せるという提案に歓喜します。総額で500万円かかる出版費用のうち半額の250万円を出してくれたら出版できるともちかけます。それもあの手この手の方法で、このあたりが大笑い!
実際に1,000部程度の本を出版するのに、それだけの費用はかかりません。私も印刷会社で働いていたことがありますから、自費出版でどれだけの費用が製版から製本までかかるかはわかります。これだけの金額をもらえば、出版社は本が売れなくても利益が出ます。もちろんきちんと取次の会社に依頼して書店に本が並びます。時にはうっかり間違ってベストセラーになる本も出てくるという皮肉なこともあります。
カモになる著者は騙されていると思うどころか、主人公である牛河原という編集長に感謝します。自分の長年の夢がかなうわけですから。つまり『夢を売る男』というタイトルはここから来ているわけです。その相手を丸め込むやり取りが面白くて、声をあげて笑ってしまいそうになります。
百田さんもこの本を通じて言っていますが、作家ほど儲からない商売はないのです。現在の出版不況で、通常の本の出版に関してはどの会社も赤字です。本が売れないのです。一万部の本が売れたら編集者も著者もバンザイするという時代です。ほとんどの本が4千〜5千部の初版どまり。私の最初の本もまさしく、その数字です
でも一万部売れたとすると、どれだけの印税があると思いますか。1,500円の本ならば一般的に150万円ほどです。バンザイするほどの売れ行きの本で、1年に1作しか出版されなければ、その作家の年収は150万円です。アルバイトするほうが稼げますね。ミリオンセラーになって初めて、生活するだけの印税が手に入るのです。
そうした実態が物語として書かれていて、事情を知っている人間なら笑うに笑えない本です。でも笑ってしまいます。自分の置かれた立場を考えつつも、私は笑える自分であってホッとしています。自分の本を出したいと願っているだけの人が読めば、おそらく顔がひきつるでしょう。出版界の現実をさらけ出した、ある意味とても怖い本でもあります。こういった本をどうどうと小説にする百田さん。いいなぁ〜!
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