思いを写す心霊写真
今日は昨日以上の快晴です。昨日は外出先から帰る途中、突然厚い雲に覆われて一瞬だけ吹雪のような雪が降りました。でも今日は朝から夕方にかけて、雲がほとんどない青空が続いています。かなり気温は低いようですが、晴れているだけで気持ちがいいです。
今日は引きこもりです。朝からブログで連載している小説を書いて、午後からは明日の朝のブログの下書きをしました。明日は朝一番に歯科の治療ですから、すぐにアップできるように下書きしておきました。それから、前回にブログで連載した小説のリノベーションです。
午前中に悪霊が出てくる小説を書いて、午後から妖精が出てくる小説を書いています。気持ちを切り替えないと、めちゃ可愛い悪霊や、おどろおどろしい妖精を書いてしまいそうです。でもよく考えてみたら悪魔や天使なんて、人間の思い方次第のような気がします。
同じ存在でも、ある人が見たら天使であり、別の人が見たら悪魔かもしれません。そういう観点で見れば、幽霊という存在は決して怖いものではないかもしれません。例えば心霊写真を撮影してしまったとしても、それが悪いものとは限りません。そんなことをテーマにした小説を読みました。
『小暮写眞館』宮部みゆき 著という本です。
全部で700ページを超える分厚い小説です。読了するのに時間を要しました。図書館でふと目について手にした本です。だから内容をまったく知らずに借りました。
主人公は花菱英一という高校生。小学生の光という弟と両親の4人で暮らしています。4人が引っ越してきたのは、写真館があった古い家でした。「小暮写真館」という看板が残っています。両親は物好きな夫婦で、面白いからと大規模なリフォームしないでそのまま住むことにしました。
その家は80代の小暮さんという老人が一人で住んでいました。子供たちは独立しましたが、その家を離れたくなかった。だから死後も小暮さんの幽霊が出る、という噂が絶えない家でした。
いきなり心霊写真が登場します。主人公の英一は、まるで「心霊写真バスター」のような立場になり、不思議な写真を解明することになります。この段階ではホラー小説かと思っていました。ところが文体は伊坂幸太郎さんの小説のようにユーモラス。決して暗い雰囲気ではありません。半分くらいまでどう言った小説なのかつかめませんでした。
最終的には3枚の不思議な写真が登場します。1枚目は生き霊。2枚目は念写。3枚目はデジタルによる加工。写真の正体だけを言えば、そうした結果になります。ところがそれぞれの写真に、心を揺さぶる物語があります。読みながら何度涙をこぼしたことか。
言葉で言い表せなかったり、立場上言えなかったり、時空的に話せなかったり、という人間の強い「思い」がそれぞれの写真に込められています。そうした人間の意識がそれぞれの写真に写されているのです。そこまで読んで、著者の宮部さんの意図が理解できました。素晴らしい構成です。
そしてこの花菱家にも他人に言えない「思い」があったのです。長男の英一と弟の光の間に、風子という女の子がいました。でも4歳の時にインブルエンザ脳炎で亡くなります。幼児の脳炎というのは急激に発症するらしく、一晩置いておくだけで手遅れになることが多いそうです。
当時2歳だった光は、自分がかかったウィルスが風子にうつったことを知ります。2歳の自分の看病に母が疲れ、風子の症状に気がつくのが遅れた。そのことが小学生になった光の心を押しつぶしています。自分のせいで風ちゃんは死んだ、と自分を責めていました。
母親はもっと自分を責めています。光の看病で疲れて果てて寝入ってしまい、娘の異変に気付くのが遅れました。それゆえ母は心に大きなトラウマを抱えています。
父は出張中でした。だから自分さえ家にいれば、娘を死なせることはなかった、と自分を強く責めています。
そして主人公の英一も同じです。当時10歳だった英一は、少し拗ねていました。弟の病気で母が自分にかまってくれないので、拗ねていたのです。深夜に妹の様子がおかしいことに気づきました。でも母をここで起こせば、また自分は嫌われるかもしれない。10歳の子供なりに、自分を守ろうとして言えなかった。そのことをずっと心の奥底に押し込めていたのです。自分が風子を死なせた、と。
いつも明るい花菱家ですが、死んでしまった風子の面影を誰もが引きずっていました。そんな一家が風子の死を受け入れ、前に進んで行く物語です。その貴重なアイテムとして、写真館と写真が使われていました。そして英一の淡い恋を絡ませることで、とても素敵な物語になっています。
私が今まで読んだ宮部さんの著作の中で、間違いなくベスト3に入る素晴らしい作品でした。きっといつまでも心に残る物語です。
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