嫌いだけれど、心に残る
今日の外出は雨を覚悟していましたが、よほどわたしの精進がいいようで、出かける直前に雨がやみました(笑) そしてその後も傘を使うことなく戻って来れました。
少しずつ正月用の買い物をしていますので、雨降りだと荷物を持つのが大変です。おかげでいい買い物ができました。といってもたいそうなおせち料理を作るわけではありません。お正月の雰囲気を少し楽しむ程度です。
今日のスーパーは、すっかりお正月仕様になっていました。これから大晦日にかけて、大勢の人が買い物をするのでしょう。そのうち帰省ラッシュも始まり、一気に迎春気分になりますね。来年はどのような1年になるのでしょうか?
昨日読了した本です。
『国境の南、太陽の西』村上春樹 著という本です。
タイトルを見て、外国が出てくる物語なのかなぁ、と勝手に想像していました。ところがまったく外国なんて出てきません。わたしより一回りほど年齢が上の主人公である『僕』について、少年時代から30代後半までを描いた物語でした。
初めて読んだ村上春樹さんの作品があまり好きではなくて、以前は敬遠していました。ところが作品によってはめちゃめちゃ面白い小説もあり、機会をみて読むようにしています。どうもいくつかパターンがあるようで、この作品はわたしが苦手としているタイプのものでした。
少年の頃に初めて恋心を抱いた同級生と、中学に入ると転勤で離れてしまいます。その後に多くの恋愛を経験しますが、常にその女性のことが頭から離れない。そのことをウダウダと悩み続ける主人公の物語です。新海誠さんのアニメに登場しそうなキャラです。
自分のなかには『空洞』のようなものがあって、それを満たすために必死で生きています。しかしその『空洞』を満たしてくれるのは、その女性だけだという考えが離れません。30代にしてようやく再会して、そのことを確かめようとします。
こういうパターンの小説がマジで苦手です。「何をグチグチ悩んでんね!」と主人公を罵倒したくなります。でも最後までページを繰る手を止めることができませんでした。これこそ村上マジックなのかもしれません。
その理由の一つは謎があることです。初恋の相手である島本という女性は、主人公と離れてからの人生がまったく謎です。普通の家庭だったのに、超セレブの生活をしていることが想像できます。まったく働いたことがないのに、裕福なのです。
でも結婚はしていないようですし、あまり男性の影を感じません。一度娘を出産して翌日に亡くしたという過去がわかるくらいです。どこに住んでいるのかさえ不明です。さらに『僕』に対して、心中をほのめかすような行動も見せています。とにかく謎だらけなのです。
さらに高校時代に交際したイズミという女性がいます。結果的に『僕』のひどい仕打ちで、二人は大学入学前に別れることになります。ところが30代になってから友人の話で、そのイズミが「恐ろしい』女性になっていると耳にします。えっ、彼女に何があったの??? その謎が気になります。
でも結論から言えば、それらの謎はまったく明かされません。最後のページを繰ってから呆然としてしまいました。心のなかにモヤモヤだけが残されて、別の本を読まなければ眠れない気分でした。
さすが純文学。エンタメ小説では考えらえないですよね。推理小説を最後まで読んで、犯人が誰であって、その動機もわからないままで終わるようなものです。ひたすら『僕』の心の葛藤が描かれ続けていくのです。
ところが困ったことに、とても心に残る小説でした。読み終わった後も、ずっとこの小説について考えていました。おそらくそれは、心の『空洞』を抱えている主人公に自分と同じものを見ているからでしょう。そしてそれは誰にとっても同じだと思うのです。
人間が人間であるための最大の理由は、完全であることを模索しているということだと思います。成長するにしたがって自分にないものに気づいていきます。見せかけだけの幸せでは満たされない、言葉にできない『空洞』を誰もが抱えているのです。
どうにかしてそれを埋めようと、必死で生きているのが人間ではないでしょうか? 主人公の『僕』がラストでその思いを妻の有希子に告白します。すると有希子は、人間は誰もが『空洞』を抱えて生きている。あなただけではないのよ、と答えます。その彼女の言葉に、啓示のようなきらめきを感じました。
その『空洞』こそが、人間の個性というものではないでしょうか? わたしはそのように感じました。それは長所でもあり短所にもなります。でも人間として生きている限り、決して埋めることのできない『空洞』なのだと思います。
それを埋めることができた人は、いわゆる悟りをの境地を得るのかもしれません。そんな『空洞』に共鳴するからこそ、わたしは最後まで読み続けたのだと思います。やはり村上春樹さんはすごい。そう感じた小説でした。
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