音のマジック
明晰夢を見ているとき、ボクがよくやる遊びがある。
それは音を創造すること。
夢のなかでわざと目を閉じて、周囲の音をシャットアウトする。その状態でリズムを待つ。自分であえてイメージしないで、リズムが湧き上がってくるのをひたすら待つ。
ゆっくりなリズムもあれば、16ビートの激しいリズムのときもある。でもそれがその瞬間に創造した音であることはまちがいない。そこから想像力を駆使して、一気に音を重ねていく。
リズムに合わせてベースギターをイメージして、そこにピアノやギターを重ねる。そして直感的に感じたヴォーカリストの声も引き寄せる。
そこから明晰夢でのジャムセッションがスタートする。ボクもアドリブで歌に参加したり、ギターを弾いたりする。まったく新しい未知の楽曲を、全身を通じて感じることができる。この曲を記憶できたら、作曲家になれるかもしれないねwww
今朝も明晰夢で音を創造して遊んでいた。音を楽しむ。これこそ音楽の真髄だろう。
そんな音の創造を見事に表現した映画を観た。もうビックリ! これほど衝撃的な映画を観たのは本当に久しぶりだと思う。
『アーティスト』という2011年に公開されたフランス映画。
フランス映画で主演の二人もフランス人の俳優さん。ところが舞台は1927年から1932年のハリウッドで、なおかつこの映画はアカデミー賞で作品賞等を含めて5部門を受賞している。ハリウッド映画といってもいいかもしれない。
2011年の映画なのにモノクロでサイレント。これだけでも驚く。
なぜなら主人公のジョージ・ヴァレンタインは、サイレント映画の俳優だという設定だから。ジョージは時代の寵児となり、誰もが認めるスーパースターだった。
ある日の取材中、ペピー・ミラーという女性と出会う。その偶然をきっかけにして、ペピーはエキストラに応募して採用される。映画スタジオでペピーを見かけたジョージは、彼女のキラメク才能に心惹かれ、映画会社の社長に推薦する。
しかしそんなジョージの時代は突然に終わりを告げた。映画はサイレントから声が出るトーキーに変わる時代だった。映画会社の社長はトーキー作品に出るようにジョージを説得するが、彼はそれを拒否する。それは同時に彼の俳優としての人生を奪うことになってしまった。
ここまでずっとサイレントで映画は進行するが、一度だけ音が出る。それはトーキ映画の時代を恐れるジョージの夢のなかだった。現実世界は音がないのに、夢の世界だけで音が出る。この逆転効果は本当に素晴らしい! ジョージの内面世界を描いた作品だということがよくわかる。
やがてジョージに代わってスターダムにのし上がったのは、トーキーの申し子となったペピー・ミラーだった。またたくまにハリウッドの大スターとなり、数々の映画に出演する。だけどペピーはジョージにもらったチャンスを忘れていなかった。
彼がいなければ今の自分はない。それだけでなく男性として彼を愛していた。俳優の仕事がなくなったジョージは、世界恐慌にも巻き込まれ財産を失う。もともと関係が悪化していた妻は逃げ出し、残されたのはボロボロのアパートと愛犬のジャックだけだった。
そんなジョージの私財がオークションにかけられるが、そのすべてを買い占めていたのはペピーだった。ジョージの俳優としての才能を信じ、彼を愛するペピーはひそかに彼の生活を支えていた。
ところが絶望に取り憑かれたジョージは、やがて自ら命を絶とうとする。その窮地を救ったのもペピーだった。
そしてペピーは映画会社を脅した。自分とジョージを共演させなければ映画界から去る、と。それはジョージの本当の才能を見抜いている彼女だからこそ言えることだった。
映画はついにラストシーンを迎える
ジョージとペピーが見事なタップダンスを見せている。映画の撮影シーンだが、まだサイレントとして物語は進む。
ところが「カット!」声がかけられた瞬間、すべての音が復活する。それはまるで、ジョージが映画の世界に復帰した合図かのように……。
それは音が創造された瞬間だった。これこそ音のマジックだと思う。
これほど映画で『音』を意識させた作品はないと思う。なんて素晴らしい映画なんだろう。あえて音を隠すことで、ラストで最大限の効果を得ている。
映画を観ている人たちが、『音』という新たに広がった知覚を新鮮に感じることで、主人公が古い壁を打ち破ったことがわかる。
ぜひ大勢の人に見て欲しい映画だと思った。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。