江戸時代の純愛物語
ようやく今日になって、神戸も桜の開花が発表された。自宅近くの桜はこんな感じ。
ということは来週くらいには満開になるね。毎年必ずお花見に行く場所が前半と後半で2ヶ所あるので、いよいよ出動準備をする時期になってきた。
前半は神戸市内なのでどこかでお弁当を買って、後半は遠方なのでお弁当を作って行くことになると思う。短い期間だけれど、目一杯今年の桜を楽しもうと思う。
日本人は本当に桜が好きな民族。まだ花びらが生き生きとした状態のままで散るから、日本人としては潔さを感じるのだろう。常に死と隣り合わせで生きている武士が気にいるはずだよね。
そういえば今日観た映画に武士が登場したけれど、綺麗な桜が一緒に映されていた。
『隠し剣 鬼の爪』という2004年の日本映画。藤沢周平さんの原作で、監督は山田洋次さん。
物語の舞台は幕末で、時代の変化に翻弄される東北の小藩の武士たちが描かれている。物語を進行させているのは、藩内で起きた謀反事件とその処理。
ところがこの映画のいいところは、主人公の純愛がメインになっているところ。さすが山田洋次さんだと思う。彼が脚本も書かれている。
主人公の片桐は剣の達人で、剣術指南役の戸田寛斎から秘剣である『鬼の爪』という技を伝承されている。同門の親友だった狭間は謀反を起こし、牢に幽閉された。ところが牢破りをして、村人を人質にとって立てこもってしまう。
その狭間も剣の達人なので、片桐に狭間を斬るよう藩命が下される。仕方なく親友を斬るが、狭間に対する家老のあまりの仕打ちに、片桐は復讐を決意する。そのときに必殺の暗殺剣である『鬼の爪』を使うというストーリー。
でも先ほども書いたけれど、片桐の苦悩と同時に描かれているのが彼の純愛。自分の屋敷の女中として働いていた、きえという女性を愛している。だけど身分がちがうから一緒になることができない。
片桐は周囲から嫁を取るように進めらるが、決して首をたてに振らない。きえと一緒になれないのなら、嫁などいらないと思っている。片桐は真面目で一途で、とても純粋な人物として描かれている。だから親友を斬ることがどれほどの苦痛だったかわかる。
親友を殺したことで武士という仕事が嫌になった片桐は、禄を返上して武士を辞めてしまう。そして町人になることで、きえに求婚して江戸に向かおうとするところで終わる。ハッピーエンドの心温まる素敵な物語だった。
片桐役を永瀬正敏さん、きえ役を松たか子さんが演じている。二人の演技が素晴らしくて、本当に見応えのある素晴らしい作品になっている。片桐の妹の婿である吉岡秀隆さんも良かったし、悪役の家老を演じていた緒形拳さんも、さすがだと感じさせる存在感だった。
2時間強の作品だけれど、あっという間に終わってしまう印象だった。とにかく目に入る風景やセットが美しい。時代考証もよくされていて、登場人物の何気ないしぐさに配慮の行き届いた山田監督の演出を感じた。
江戸から明治に変わろうとする時代の激変が、二人の男女の純愛とともに見事に表現されている。決して大げさな言い方ではなく、日本の映画史に残る名作だと思う。
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