やっとデビュー作に出会えた
もしこの世にパソコンがなかったら、ボクは絶対に小説を書いていないと思う。直感的に浮かんだ文章を書き進めながら、途中で大幅に変更することが多々ある。さらに書き直しという普通の人が嫌がる行為が大好きなので、バンバン書き直してしまう。
それもこれも、パソコンだからできること。手書きの原稿なら、何が何だかわからなくなってしまう。『スタンド・バイ・ミー』という有名な映画で、大人になった主人公が子供時代のことを文章に書いているシーンがある。
そのタイプライターを打つ姿を見たとき、これこれ、と思った。この映画は1986年公開だから、まだパソコンは普及していない。一般的にようやくワープロが利用され出したころ。その映画を観て、日本語もこんな機械打ちができるなら、文章を書きたいと思った記憶がある。
だから今のボクにとって、パソコンはなくてはならないもの。最近はスマートフォンで小説を書くという猛者もいるけれど、ボクには無理。そんなパソコンの不良に対処するために購入した、外付けのキーボードが届いた。
設置した状態はこんな感じ。試しに入力してみたけれど、かなり快適だった。IとEのキーを打つときにどうしてもブレーキがかかっていたけれど、これならスムーズに書き進めることができる。これでなんとか万が一の事態になっても仕事ができる。
このブログは復活した妻のパソコンで書いているけれど、まだ少しは電源面で不安定な部分が残っている。このままこのパソコンを使えるのがベスト。やっぱり使いやすいからね。それでも備えあれば憂いなし。これで心置きなく仕事に集中することができる。
そんなボクと同じように、ワープロがなかったら作家になっていなかった、と言っている人がいる。それは宮部みゆきさん。その宮部さんの作品を追いかけているけれど、ようやくデビュー作に出会えた!
『我らが隣人の犯罪』宮部みゆき 著という本。
この本は短編集で、5つの作品が収められている。タイトルになっている『我らが隣人の犯罪』で新人賞を受賞して、宮部さんは作家としてデビューされている。
まだ『火車』、『理由』、『模倣犯』などの代表作が生まれる前の時代。だからとても新鮮な雰囲気に満ちているし、底知れないポテンシャルの大きさを感じさせる作品たちだった。思わず笑ったり、ホロリとなって涙が出たりする。やっぱり才能のある人はちがうよね。
簡単に作品を紹介しておこう。
『我らが隣人の犯罪」
主人公の一家が引っ越してきたのは、3軒長屋の真ん中。その隣の部屋に鳴き止まないスピッツがいる。安普請の家なので、音がもろに響く。そこで主人公の子供と叔父が、そのスピッツを奪い、もっと大事にしてくれる飼い主に渡そうとする。その途中でその家の脱税の証拠が見つかる。そこで叔父がとんでもない作戦を立てるという物語。
『この子誰の子』
両親が旅行で外出しているとき、留守番をしている主人公の中学生を訪ねてきた女性がいた。赤ちゃんを抱いている。実はこの子供はあなたと腹違いの兄弟だという。そしてその女性はその家に上がり込み、両親が帰ってくるまで待つという。つまり責任を取らそうということ。
ところが翌日になって、その女性は両親に合わないまま帰る。気になった主人公はその女性を探す。そこで驚愕の事実を知る。そして感動して、涙がポロポロ出てきたという素敵な作品。
『サボテンの花』
小学校の6年生が、卒業研究でサボテンの超能力を証明する実験に取り組む。だけど担任の教師は大反対する。教頭は子供たちの好きにさせてやるように指示するが、担任教師は職務を放棄し、父兄は教頭を責め立てる。だけど教頭は定年間近で、担任教師に変わってそのクラスの授業を行い、最後まで自由研究をやらせた。
卒業発表は無事に終わり、参加した教師や父兄はサボテンの超能力に驚く。ところがそれはヤラセだった。その研究の本当の目的は、優しくしてくれた教頭に対する子供たちからのプレゼントだった。これも号泣したよ〜〜!
『祝・殺人』
結婚式の披露宴会場でエレクトーンの演奏をしている女性から、ある刑事が相談を受ける。実はその結婚式場で司会をしていた男性が、バラバラ殺人事件で殺害されている。その殺人のきっかけになる祝電があって、その様子を見た女性が真相を突き止め、刑事に相談するという内容。
この作品は、この後の宮部さんの作品の多くを占めることになる推理小説のお手本のような秀作。隠された秘密が明らかになるにつれ、その世界へ引き込まれていく。まさに「宮部ワールド」という内容の小説だった。
『気分は自殺志願』
駆け出しの小説家の男性が、ある中年の男から相談を受ける。他殺に見えるような自殺方法を考えてほしい、とのこと。推理作家のあなたならできるはずだ、と無理難題を押し付ける。その理由はとても気の毒なものだった。
インフルエンザの薬の副作用で、その男性は味覚障害を起こしている。有名レストランのホール主任だから、それでは仕事にならない。なぜなら味を感じないのではなく、どんな美味しい料理の味も匂いも、『生ゴミ』のような匂いと味としてしか知覚できないから。
そこでその作家は、とんでもない奇策を考える。それがとても痛快。誰もがハッピーになるような終わり方だった。心温まる素敵な作品。
というような短編集。ようやく宮部さんのデビュー作を読めたけれど、全作品制覇までにはまだまだ日数が必要。ようやく半分くらいだろうか? でもそれだけ楽しみがあるということだよね!
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。