イブ・サンローランの魅力
すっかり秋だよね。今日から9月。久しぶりに朝から小学生が通学する声を聴いて、季節の移り変わりを実感した。
日が差す場所はまだ暑いけれど、日陰を歩いていると本当に快適。もう少し涼しくなったら、ぼちぼち買い物の帰り道も歩くようになるだろう。お彼岸のころには往復歩くようになるかもしれないね。
さて人間の先入観というものは頑固で、ボクのような年代になってくるとしつこく居座っていることが多い。そんな頑固な先入観としてボクに存在しているのは、ヨーロッパ映画は退屈、ということ。
イギリス映画に対してそんな印象はないけれど、イタリア、スペインの映画を観て退屈に感じることが多かった。もちろん『ニュー・シネマ・パラダイス』や『ベルリン天使の詩』のような例外もあるけれどね。
なかでも苦手だったのが、フランス映画。ハリウッドの派手な映画で育ってきたボクにとって、あの緩慢とした時間の流れは耐え難かった。ところがそんなフランス映画に対する先入観をぶっ壊してくれる作品を観た。
『イブ・サンローラン』という2014年のフランス映画。
タイトルを見てわかると思うけれど、誰もが知っているファッションブランドのイブ・サンローランの伝記映画。彼のことを全然知らなかったので、勉強のつもりでトライしてみた。フランス映画だから、ちょっと警戒しながらね。
ところがこの映画、めちゃめちゃ面白い! テンポ感は軽快だし、出演している俳優さんの演技が素晴らしい。そしてアメリカ人が描くフランスとちがって、自国の美しさをスクリーンに表現しようという明確なメッセージを感じた作品だった。
イブ・サンローランがディオールの助手として働いているところから映画が始まる。そんなこともボクは知らなかった。そしてディオールが亡くなったあとのブランドを支えていたのが、イブ・サンローランだということもまったく初耳だった。
そしてさらに知らないことがあった。イブ・サンローランがゲイだったということ。この映画は彼の恋人で、かつ後援者でもあるピエール・ベルジェが語り手として映画が進行していく。イブとピエールの、愛と葛藤と成功を描いた物語になっている。
イブはアルジェリア出身のフランス人で、ディオールが亡くなったころはアルジェリアは内戦状態だった。そんな祖国に、彼はフランス人でとして徴兵されて向かうことになる。内気なイブは、軍でのいじめが原因で精神を病んでしまう。
そして精神病院でひどい治療を受けることでトラウマを抱えることになり、その後のドラッグと酒に溺れる要因を作ってしまう。そんな彼を生涯にわたって支え続けたのがピエールだった。
精神病院に入院したことでディオールを解雇されたイブは、ピエールの助けで不当解雇の裁判を起こす。そして勝訴した賠償金を元手にして、彼自身のブランドである『イブ・サンローラン』創設する。
イブという人は天才だったけれど、ピエールなしにはこのブラントは今のような世界的なものになっていなかったはず。この映画を観て、ボクたちが普段から目にしているあの有名ブランドが、イブとピエールの愛の結晶だということがよくわかった。
自暴自棄になってピエールを裏切るイブを、いつまでも影で支え続けたピエールの姿に心打たれた。それはピエールがイブを天才だと認識していただけでなく、心のそこからパートナーとして愛していたからだと思う。
フランス映画に対する先入観をぶっ飛ばしてくれた。本当に素敵な作品だった!
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