処女作にはキラキラがいっぱい
まだ昼間は夏を感じるけれど、我が家の夏モードは終了。何が終了したかといえば、冷蔵庫の氷。
氷は夏のあいだしか使わない。主にランチのそうめんや冷麺で使うためと、ボクが午後に飲むアイスコーヒー用の氷。だから涼しくなると、冷蔵庫の製氷機能を止めてしまう。自宅で水割りやロックのお酒を飲む習慣がないから、氷なんて必要ないからね。
2日ほど前に今年の夏の終わりを宣言して、冷蔵庫の製氷機能を停止した。だから今日のランチは熱いうどんだったし、午後のコーヒーはホットだった。今日は微妙に気温が高いけれど、熱いものを食べて大量に汗をかくほどでもない。これで来年の夏が来るまでは、作られた氷が製氷室に落ちる音を聴くことはない。
さて、昨日のブログで書く予定だった本を紹介しよう。
『パズル・パレス』ダン・ブラウン著という本。これは著者の処女作で、アメリカでは1998年に出版されている。日本では2006年に翻訳本が出た。
まだ『ダヴィンチコード』を書く前の著作なので、ダン・ブラウンのファンとしては興味深い。物語の舞台となるのは、アメリカ国家安全保障局(NSA)で、暗号解読がテーマになっている。相変わらずめちゃめちゃ面白くて、ページを繰る手を止められなかった。
面白いのは、『ダヴィンチコード』を代表とする、『ロバート・ラングドン』シリーズの萌芽にあふれていること。いつか世に出るであろうベストセラーのパワーが、この作品のなかでいくつも見られた。まさにキラキラがいっぱいの処女作だった。
主人公は二人。ラングドンシリーズと同じく、男女二人の人物が活躍する。女性はスーザン・フレッチャーという、天才的な頭脳を持つNSAの暗号解読課主任。ラングドンシリースでも、科学者の女性は欠かせない存在だよね。
そして男性はスーザンの恋人であるディヴィッド・ベッカー。なんとデヴィッドは、ロバート・ラングドンと同じく、天才的な大学教授という肩書き。つまりラングドンシリーズの種は、すでにダン・ブラウンの処女作に見られるということだよね。
NSAはハッカーにとって、難攻不落の「トランスレーター」という暗号解読のスーパーコンピューターを所有している。だがその計画は失敗したと嘘を公表して、ひそかに稼働させていた。なぜなら公開鍵の暗号なら、NSAに解読されないと犯罪者たちに思い込ませるため。
つまりNSAは犯罪者だけでなく、一般人を含めた世界中の人間のメール等を読むことができる。それによってテロを未然に防ぎ、FBIやCIAにも貴重な情報を提供していた。ところがNSAを追い出された天才科学者が、「トランスレーター」の存在を世間に知らせるために、新しい暗号を開発する。
それは決して解くことのできないと言われる暗号システムだった。「デジタル・フォートレス」名付けられた暗号システムは、パスワードをかけられて無料でネット上に出され、ひそかにオークションにかけられる。
もしテロリストにそのシステムが渡れば、NSAは情報を支配できなくなる。システムを開発した男は、「トランスレーター」の事実を公表することと引き換えに、「デジタル・フォートレス」を無効化するパスワードを教えると脅す。
ところがそれは巧妙に仕掛けられた罠だった。物語の後半で、とんでもない事実が明らかになる。想定外のエンディンだから、気になる人はぜひ一読を。
暗号好きのボクとしては、最高に面白い作品だった。もうひとつ面白いと感じたのは、妙に荒削りな文章。もちろん翻訳で読んだけれど、それでも完成されていない文章だとわかる。『ダヴィンチコード』等と比べると、ダン・ブラウンの緻密な文章は、この時点では完成途上だったんだね。
うまくいえないけれど、いい意味でうれしかった。あれほどのベストセラー作家でも、作品を重ねながら技術を高めていることがわかったから。この小説を読むことで、ボクのモチベーションが高くなった。やる気が出るわ〜!
これでダン・ブラウンの作品で未読なのは『デセプション・ポイント』だけになった。近いうちに読もうと思っている。そして2017年に『オリジン』という新作を発表しているらしい。どのような内容か不明だけれど、翻訳されるのが待ち遠しいなぁ。
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