身分を超えるための闘い
今日は見事な秋晴れの神戸。まだ日差しは夏の雰囲気を残していて、歩いていると思い出したかのようにツクツクボウシの声が聴こえる。でも空気の冷たさはここ数日とちがい、いよいよ本格的な秋に突入したと感じさせる。
ここにきて新作の小説の展開に悩んでいる。布団のなかでもずっと考えているんだけれど、モヤモヤが取れない。そんなときは心地いい音楽を聴くのが最適。2日前の9月27日に、初めてのベストアルバムをリリースしたミュージシャンがいる。
『ザ・ベスト』というアリアナ・グランデのニューーアルバム。どんな曲が収録されるか予想してみたけれど、ほぼ的中。まぁ、ヒットソングは当然入るからね。今日の午後から全曲を通して聴いたけれど、まさしく『ザ・ベスト』という名にふさわしい内容だった。
彼女のアルバムはすべて制覇しているので、もちろん全曲知っている。だけどアルバム単位じゃなく、新旧の曲をアトランダムに聴けるのがベストアルバムの楽しみだよね。それにこれまでのアルバムで発表されていない、スティービー・ワンダー等のコラボ曲も収録されていたのでうれしかった。
当分はこのアルバムにハマりそう。今年の日本ツアーは逃したから、次回に来日公演があったら、必ずライブに行きたいと思っている。何より彼女の歌唱力は絶品。絶頂期のマライア・キャリーよりうまいと思う。あの歌声を、一度は生で聴いてみたい。きっと感動して鳥肌が立つだろな。
さて、昨日はめちゃめちゃ面白い小説を読了した。
『幻庵』上巻 百田尚樹 著という本。久しぶりに百田さんの新作小説を読んだ。
江戸時代の囲碁の世界を描いた物語で、今まで知らなかった興味深い内容に好奇心を刺激される作品。
冲方丁さんの小説に『天地明察』という作品がある。ボクが初めて江戸時代の囲碁の世界に興味を持ったのは、この小説が最初だろう。だけど『天地明察』では囲碁の世界よりも、天文学者としての主人公に光が当てられている。
だけど百田さんのこの小説は、幕末近くの囲碁界について詳細に書かれている。読み慣れてくるまではとっつきにくいが、この世界の用語に慣れてくると面白くて止まらない。さすが百田さん、と脱帽するしかない見事な展開の物語になっている。
主人公は実在の人物で、井上幻庵という。当時の囲碁界で天才として名を馳せたこの名人の人生を描いている。上巻は主人公が弟子入りして、家元の跡目になる少年のころから青年時代までが書かれている。
囲碁の世界には、茶道のように家元がある。井上家、本因坊家、安井家、そして林家の4つ。徳川家康が碁を愛したことで、この4つの家元には禄が与えられている。そして驚くことに、将軍にお目見え可能で、御前で碁を打つことが義務付けられている。それが許されているのは家元と、その跡目だけ。
ところが武士のように世襲制ではない。本当にその家の碁を継承する者だけが、跡目となって家督を受けることができる。つまり農民であっても下級武士であっても、碁が強ければ将軍にお目見え可能となる。この時代では考えられないこと。
この物語に登場する家元たちも、そうした卑賤の出自である者が多い。農民だったり、商人だったり、下級武士だったり。この物語の主人公である井上幻庵も、足軽の三男だった。ライバルである本因坊丈和という人物も、無宿人として投獄された過去を持っている。
といっても家元になったり、跡目になるのは簡単ではない。途方もない碁の才能と、生きるか死ぬかのような努力が求められる。それほど碁の世界は深いということ。そのあたりの実情が、とてもわかりやすく書かれている。まさに身分を超越するための闘いの世界だった。
下巻では井上家の跡目に決まった幻庵が、名人となるまでは書かれている。江戸時代でさえ、名人となったのは数えるほどしかないらしい。幻庵がどのような苦難を乗り越えて名人となるのか、読むのが楽しみ。今夜から下巻に突入する。
4年ほど前に、まったく知らなかった碁を独学で学んだ。コンピュータ相手にしか打ったことはないけれど、時間がなくなって練習が中断している。この小説を読んで、また碁の練習がしたくなってきた。これほど奥が深くで面白いボードゲームはないと思う。久しぶりに復習してみようかな。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
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