『善き人』の正体
なんと1ヶ月後はクリスマスだよ。そしてそこからさらに1週間をプラスすると、お正月だという恐ろしい事実。
昨日のブログに書いたけれど、今年に春に完成させた小説の全面改装中。まさにその言葉のとおり、大幅に書き直している。思っているよりもはるかに時間がかかりそうなので、ちょっと焦っている。だからカレンダーが気になるんだろう。
少し余裕を持って始めた仕事だけれど、今日あたりはかなり本気モードになっている。できれば年を越したくないんだけれど、そうも言っていられない状況になってきた。
こんな状況で自分のハートのエンジンをフル稼働させたいとき、刺激になる本を読むのは効果的。めちゃめちゃ刺激的な小説を読んだ。
『アグニオン』浅生鴨 著という本。
ボクが浅生さんを知ったのはTwitter。コピーライターの人たちのTwitterは面白い。そんな著名なコピーライターに絡んでいる面白い人が浅生さんだった。Twitterからファンになったとう珍しいパターンなんだけれど、ある日驚いたことがある。
『チョイ住み』というボクの好きなテレビ番組がある。基本パターンとしては、歳の離れた二人が外国で部屋を借りて、一週間ほど暮らすという内容。月に1度くらいのペースで新作が放送されている。
その番組のプロデューサーが、この浅生鴨さんだった! 元々はゲーム会社やレコード会社で仕事をされていて、NHKで番組を作られるようになった。今はNHKを退職されているけれど、ライターとして活躍しつつ、この番組には関わっておられる。
普段はTwitterでしか接していない浅生さんがどんな小説を書かれるのか? 興味を持ってこの作品を読んだけれど、マジでぶったまげた。
SF小説なんだけれど、とにかく奥が深い。そしてめちゃくちゃ面白い。さらにとてつもない語彙力を駆使することで、言葉の洪水に圧倒される。この小説のタイトルの『アグニオン』の語源はわからないけれど、ふりがなで『善き人』と書かれていた。
他にも興味深い言葉がどんどん出てくる。機関員(アルビリスト)、機関(アルビトリオ)、監理者(インスペクタ)、有機神経知能(サピエンティア)というようなもの。この独自な語句を多用することで、この小説の独特な世界観が見事に構成されている。
未来の地球と、その数百年後の物語が同時進行する。最終的に二つの世界はつながるんだけれど、この構成はボクの大好きなパターン。実は次の作品はこの手法を考えていたので、今の時期にこの作品と出会えたことはラッキーだった。
未来の世界では、世界大戦を防いだ人たちが地球を支配している。実質的には月に設置された有機神経知能というAIがコントロールしている。支配者たちが考えているのは、犯罪や戦争を無くす平和な世界。その元凶は人間の『欲望』であると考えた。
だから言葉を通じて個人の『欲望』に関する発言をすると、全員に取り付けられた装置で感知されて逮捕される。人類は欲望を抱くことを禁じられていた。さらに『善き人』、つまりアグニオンを完成させるため、人間の感情からネガティブなものを取り去るという研究が進んでいた。
ところが人間からネガティブな感情を取り除いてしまうと、廃人のような無気力な状態になってしまう。それでもいいから全人類からネガティブな感情を分離しようという計画が実行されそうになる。
それに反対する主人公たちと、その戦いによって数百年先にまで影響が及んだもう一方の主人公たちが活躍する。この物語の世界観は簡単に説明できない。とにかく読んでもらうしかない。でもワンネス意識に関心がある人なら、ハマってしまうはず。
人間にはネガティブな感情も必要だということを、物語に進行にともなって読者の心に刻まれていく。そのあたりの構成がすごくいい。誰もが平和を求めている。だけど苦痛を避けることと、受け入れることはちがうということ。
何かを避けることは、そのことをかえって浮き上がらせてしまう。人間が人間たるゆえんは、善も悪も受け入れることでそれらを統合することにある。そんなことを感じさせてもらえた小説だった。
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