あかん、ヤバいものを読んでしまった
今日から仕事初めの人が多いのかな? 今朝ゴミを出しに行くと、同じマンションの男性がスーツ姿でゴミを出していた。きっとそのまま出勤なんだろうね。
ボクは元旦から仕事をしているので、正月気分はもともと希薄。でもサラリーマンのときも、この時期に正月気分になれなかった時期があった。それは祇園の芸舞妓事務所に勤めていたとき。
花街の年末年始は行事が多い。年末はいつも12月30日まで出勤していた。年明けの7日に八坂女紅場学園という、芸舞妓さんが通う学校の始業式がある。そのときに前年のお花売上の表彰があるので、賞状や式次第を作らなくてはいけなかったから。
そして年明けは4日出勤だけれど、3日後に迫った始業式の準備にあたふたする。当日は歌舞練場の舞台に立って司会もしなければいけないので、とにかく正月気分なんてまったく感じなかった。7日の始業式が滞りなく終わり、職員の新年会になってようやくホッとするという状況だった。
今から思えばなつかしい日々だけど、当時はマジで大変だった。年末に散髪屋に行ったとき、円形脱毛症ができているのを指摘されたほど。かなりのストレスだったんだろうね。そう考えると、ある程度自分のペースで仕事ができる今の環境には感謝しかない。
さて、今年最初に読了した本は、とんでもないものだった。ヤバいものを読んでしまった、というのが正直な感想。この著者の世界観に取り憑かれてしまったかもしれない。
『教団X』中村文則 著という小説。たしか本屋大賞にノミネートされたので、ずっと気になっていた作品。とにかくものすごい小説だった。単行本で600ページ近くある大長編なので、大晦日から読み始めて、読了するのに3日の夜までかかってしまった。
だけどいつまでも読み続けていたいと思うほど、強烈な吸引力を持った作品だった。この作品に盛り込まれている情報量は半端なく多い。タイトルから想像できるようにカルト教団のことから、仏教やキリスト教を含めた精神世界的な悟りの思想、そして太平洋戦争における靖国神社問題や、世界的な貧困やテロ組織まで踏み込んで書かれている。
巻末に書かれている参考文献を見てぶっ飛んだ! よくこれだけの本を読み込まれたと思う。ボクも小説を書くためにインプットはかなり意識しているけれど、とてもじゃないけれど太刀打ちできない量だった。
簡略できないほど深い内容だけれど、あえて言うのなら、人間の心の奥まで深く、深く、さらに深く掘り進んだ内容。だから読み進めていると、自分自身の暗部を見せつけられたような気分になってくる。目を背けつつ、心が張り付いて離れない。そんな奇妙な感覚に陥ってしまう。
主人公は教団に潜り込んだテロリストなので、犯罪者を描いた「ノワール小説」というジャンルになるのかな? その主人公は海外でNGOに参加しているとき、宗教集団に拉致されて洗脳されてしまう。必死で逃亡して日本に戻るが、その影響を受け続けている。
他にも心に闇を抱えた人物が大勢登場する。フリーセックスを教義とした教団Xの教祖は、強烈に屈折した自分の人生に終止符を打つために、主人公が計画したテロを利用しようとする。教団にはその教祖に洗脳された信者であふれ、教祖が死ねばまちがいなく集団自殺してしまう。
そしてその教団にテロを起こさせるように仕向けるため、警察庁の公安部が闇でうごめく。そうして社会の敵を捏造することで、日本の右傾化を進め、左翼たちを黙らせようとする謀略だった。とにかく心の病んだ人間たちが、次々に登場してくる。
まだ比較的新しい作品なので、結末については書かないでおこう。ボクにとっては、ちょっと人生観が変わるような作品だった。著者が登場人物に語らせた内容については同意できないけれど、小説というものが持つ新しい可能性を見せてもらえたような気がする。
かなり気になるので、この著者の作品を追いかけることにした。とりあえず手当たり次第に読んでみよう。今年最初に読む小説として、かなり有意義な作品をチョイスしたと思っている。こうして新しい出会いが続いていくんだろうね。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。