詐欺師の末路
ゴールデンウィークの前半は好天だと予報されていたとおり、今日は最高の行楽日和。JR六甲道駅付近を歩いていると、どことなく連休気分が伝わってきた。
いつもなら日曜日の図書館は混雑している。だけど普段の平日よりひっそりとしていた。きっとアウトドアで楽しんでいる人が多いんだろうね。
ボクは平常運転で、今日もひたすら新作の執筆に集中していた。今日書いた部分で、『ポンジ・スキーム』という詐欺を行う人間が登場する。この言葉を知っているだろうか?
これは投資詐欺のひとつ。架空の投資話を持ちかけて、顧客から資金を集める。だけど実際に投資はしない。常に新しい顧客から出資を求め続け、過去の出資者にはそのお金から配当金を払う。つまり右から左にお金を動かしているだけ。
でも出資者は配当金が定期的に振り込まれるので、正当に出資されていると信じる。そうして投資を集め続けるという、詐欺師にしたらめちゃしんどい仕事。まさに自転車操業だからね。
だけど信用度の高い人物がその詐欺に手を染めると、またたく間に巨額の資金が集まる。この『ポンジ・スキーム』を使って、史上最大の金融詐欺を仕掛けた実在の人物がいる。その詐欺師を描いた映画を観た。
『嘘の天才〜史上最大の金融詐欺』(原題:THE WIZARD OF LIES)という2017年のドラマ映画。
その詐欺師はバーナード・マドフという名で、映画では写真のロバート・デ・ニーロが演じている。実際のバーナードの写真を見たけれど、そっくりだった。そして妻のルースをミシェル・ファイファーが演じている。この二人の演技を観るだけでも、値打ちのある作品だった。
バーナードは証券投資会社のCEOで、ウォール街でもっとも信頼できる男と言われていた。そのことを証明するかのように、NASDAQの設立にも関わり会長を務めていたいたこともある。
この会社の業績が異常に高いので、怪しむ声もあったらしい。だけどまさか30年近くにもわたって詐欺を働いているとは、二人の息子でさえ知らなかった。投資部門を会社から完全に切り分け、フランクという腹心の人間だけに事実を明かして詐欺を働いていた。
その額は650億ドルにのぼり、まさに史上最大の金融詐欺になった。被害者のなかには、アメリカの主要金融企業だけでなく、ニューヨークメッツのオーナーや、スティーブン・スピルバーグの名前もあった。三井や住友という日本のほとんどの生命保険会社も被害を受けている。
2008年のリーマンショックがなければ、おそらくバレなかったはず。それほど完璧な詐欺で、大金持ちたちは喜んで出資していた。バーナードの息子や、妻の姉まで被害にあっているほどだから、誰も疑っていなかったことになる。
リーマンショックによって、アメリカ大手金融機関が資金の引き上げを要請した。普通の投資なら問題はない。だけど『ポンジ・スキーム』だから、いきなり元金を回収されたら破綻してしまう。なんとかしようと必死になったが、最終的には詐欺の事実に気づいた息子がFBIに通報する。
2008年の12月に逮捕されて、裁判では抵抗せずにすべての事実を認めている。最終的な量刑は禁錮150年というもので、今も服役中。二人の息子のうち長男はバッシングに耐えられなくなって自殺した。妻のルースも最初は夫に献身的だったが、息子の自殺によって決裂する。
最後には誰からも見捨てられて、孤独に刑務所で過ごすシーンで終わる。これだけの詐欺を働いたのだから、自業自得の末路だろうね。
ボクはこの事件を耳にしたことはあるけれど、詳しい事情は知らなかった。ロバート・デ・ニーロは、この複雑な人物を見事に演じていた。頭が良くて家族思いだけれど、カンシャク持ちで権力を見せつけようとする。自分の信条に従わない人間は、息子であっても罵倒するような人間だった。
妻のルースはそんな難しい夫を支え、家族をひとつにまとめていた。財産を失っても、夫を助けようとする。だけど息子たちに拒絶され、長男が自殺することで夫と距離を置くことを決意する。そんなルースの葛藤を、ミシェル・ファイファーが好演していた。
なぜバーナードがここまでの詐欺を働いたのか、その心の奥はこの作品では見えない。だけど何かを感じさせる、少し重いけれど素敵なドラマだった。
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