戦争で殺すのは誰?
天気予報どおり、今朝からずっと雨。このブログを書き始めた午後4時過ぎになっても、しっかりと降っている。植物にとっては恵の雨だね。
想像していたほど強い雨じゃなかったけれど、買い物の予定を変更しておいてよかった。おかげで天気を気にすることなく、自宅でじっくりと仕事をすることができた。
そして引きこもりの日の日課となっている、映画もしっかり観ている。今日も素晴らしい作品に出会えた。
『アメリカン・スナイパー』という2014年のアメリカ映画。アメリカ同時多発テロの後に起きたイラク戦争に、4度も従軍したクリス・カイルという兵士の自伝を原作とした作品。
クリスはアメリカ海軍の特殊部隊であるシールズの隊員。狙撃の才能を生かし、数多くの米兵の命を救っている。彼が爆弾を抱えた人間を発見して狙撃したことで、兵士たちの家族はどれほど救われたことか。なんと160人もの敵兵を狙撃して、『伝説(レジェンド)』と称された兵士だった。
そのクリスをブラッドリー・クーパーが演じている。『ハングオーバー』等のコメディアン作品の印象が強い彼なので、別人のような演技に感動した。この映画のために過酷な筋トレを積み重ね、体重を18kgも増やして撮影に臨んだとのこと。すごい役者魂だよね。
監督はクリント・イーストウッド。実在の人物を描いたら素晴らしいのは、『ジャージー・ボーイズ』という彼の監督作品で感動とともに心に刻まれている。エンドロールで実際のクリスと妻のタヤの映像が出てきたけれど、あまりにそっくりなのでビックリした。
とにかく戦争について、様々な角度から考えさせられる映画だった。クリスが初めて人を撃ったのは少年。米兵の集団に向けて、対戦車用の手榴弾を抱えて飛び込もうとした少年を狙撃している。もし彼が気づかなかったら、十数人の米兵が命を落としていただろう。
そうして実績を重ねつつも、クリスは戦争によるPTSDに冒されていく。アメリカに戻るたびに心ここにあらずで、すぐに戦地に戻りたいと願う。自分が行かないと野蛮な奴らを殺せないし、味方が死んでしまう。戦争に取り憑かれたようになってしまう。
4度目の戦闘で、仲間を苦しめてきた元オリンピック射撃選手のムスタファの狙撃に成功したことで、軍を去ることを決める。だけどPTSDに苦しみ、彼の家族に笑顔が戻るまでにはかなりの日数を要している。それからは、とても素敵なパパになったけれども。
きっと戦争で狙撃をするたび、彼は自分自身を撃っていたんだと思う。人を殺すことに罪悪感を持つのは当然。だけど任務であり、仲間の命を守るためには引き金を引かなければいけない。そうして銃弾を放つたび、自分の魂を傷つけていたんだろうね。
人生というのはとても皮肉。PTSDを克服したクリスは、同じ悩みを抱える帰還兵士を助けることに情熱を傾ける。ところが2013年、手助けしていた元兵士に射殺されてしまう。とても切なくて、エンドロールで流れた実際のクリスの葬式シーンを見て涙ぐんでしまった。
大勢の人が悲しみ、「あなたを忘れない」という言葉を贈っていた。だけどイラクの敵勢力の人たちにしたら、悪魔のような人物だろう。クリント・イーストウッドは、こうした戦争の理不尽さを伝えたかったんだと思う。本当に素敵な映画だった。
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