現実と空想の境界線が崩壊
今日は4〜5ヶ月に1度の歯科健診。病院も医者も嫌いだけれど、これだけは欠かさず続けている。
時間を取って面倒だと思いつつ、歯石の除去とクリーニングは本当に気持ちがいい。歯科健診に行くと季節の変化を感じる。前回はまだ春の気配が残る初夏だったけれど、今日の健診は初秋を通り越して秋という雰囲気。次回は2月なので、冬の寒さを実感するんだろうな。
さて小説や映画は、心のどこかでフィクションであることを認識している。だから戦争やシリアルキラーの作品に接しても、客観的な視点を維持できる。
ところが昨日読み終えた小説は、著者の巧妙な仕掛けによって、現実と空想の境界線が崩壊してしまった。フィクションだとわかっているのに、現実に起きていることかもしれないと感じている自分がいる。
『ダーク・タワーⅥ スザンナの歌』下巻 スティーブン・キング著。
全7部ある『ダーク・タワー』シリーズの第6部を読了。これで残すところ、第7部の上・中・下巻の3冊になった。もうすぐ登場人物たちの旅が終わるかと思うと、寂しくなってくる。
ここまでの経緯は、『パラレル世界と時間を超える旅』という記事を参照してもらうと、さかのぼってもらえるようになっている。
前回の上巻では、1977年のニューヨークに向かったローランドとエディが、暗黒の塔の崩壊を防ぐ『薔薇』が存在する土地の確保に成功した。そして自分たちの運命を握っているある作家に会いに行くところで終わっている。
なんとその作家とは、この物語の著者である1977年のスティーブン・キングだった。この時点で、彼はこの小説をまだ完成させていない。だけど頭のなかにはローランドの人物像ができあがっていた。
だから目の前に本当のローランドが現れたとき、小説の中の著者はショックのあまり気絶してしまう。目を覚ましたスティーブン・キングは、ローランドに催眠術をかけられて『ダーク・タワー』シリーズを書くことになった経緯を語る。
スティーブン・キングは子供のころに魔王に接触してしまい、世界の破滅に協力する物語を書くように強制された。必死で抵抗した結果、このローランドの物語を記そうとしたことがわかる。ローランドは自分に会ったというスティーブン・キングの記憶を消してしまう。
一方、妖魔の子供を宿したスザンナを助けるため、ジェイクとキャラハンは1999年のニューヨークに降り立った。スザンナの肉体を乗っ取って彼女を妊娠させたマイアによって、スザンナはすでに敵の手に落ちていた。
ジェイクとキャラハンが死を覚悟してそのアジトに乗り込み、スザンナとマイアが協力して妖魔の子供を産み落としたところで終わってしまった。
うそ、嘘やろう? なんでこんなところで終わるの? その続きが知りたかったら、最後の第7部を読めということらしい。
はいはい、わかりました。すでに第7部は手元にあるので、別の小説を1冊読んでから結末を体験しようと思っている。
それにしても驚くのは、この下巻の最終章。スティーブン・キングの日記が綴られている。おそらく本当の日記を移したものだと思う。実際の出来事が書かれ、『IT』や『ペット・セメタリー』が完成される過程が記されている。
その日記のメインは、彼のライフワークである『ダーク・タワー』シリーズについて。どのように発想を得て、どんな状態で第1部以降が出版されたかの事実が書かれている。
この段階でボクの頭はフィクションからノンフィクションに切り替わっている。
ところが日記の最後である1999年になって、驚くことが起きる。『ダーク・タワー』の第5部まで出版した段階で、スティーブン・キングは交通事故で死んでしまう。マジで驚いて開いた口がふさがらなかった。
この段階で、この日記もフィクションとして書かれていたことにようやく気がつく。だけどほぼ事実を書いた日記だから、巧妙すぎてフィクションだと感じない。
その瞬間、不思議なことが起きた。
本当に何が事実で何が空想なのか、まったくわからなくなってしまった。ローランドが実在の人物だとしか思えない。読者にここまでの錯覚を起こさせるなんて。なんてすごい作家なんだよ。恐るべしスティーブン・キング!
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。