他者の視点で世界を広げる
人間なんて主観的な生き物だから、独りよがりの知覚に頼って生きるしかない。
ネット社会になって情報があふれているけれど、ボクたちが受け取るものは自分が信じていることか、毛嫌いしていることのどちらかだろう。ゆえに知識として蓄積されるものは、独断的で偏ったものになってしまう。これは人間なら、ある程度仕方ないと思う。
人間というのは、自分が見たいもの、あるいは信じているものしか目に入らない。これは抽象的な意味だけでなく、具体的な物に関してもそうらしい。
ある本で読んだことがあるけれど、文明が拓けていない島に大きな船で乗り付けても、住民たちにはその船が見えていないらしい。網膜にはとらえているんだろうけれど、船という物体を認識して理解することができないとのこと。
だけどそれだとつまらないよね。視野の狭い自分だけの世界で完結する人生なんて、どうにも退屈で仕方ない。
そこで人類の発明したものがある。それが物語だと思う。
誰かが口述で神話や経験談を話すことで、語り手の視点を疑似体験できる。文章にしても同じだし、漫画や映画もクリエイターの視点を経験することができる。
あぁ、こんな見方もあるんだ、そんなことで怖がったり、喜んだりするんだ。そう感じつつ、自分とのちがいに気づくことができる。それは人生を豊かにしてくれるし、自分の世界を広げてくれる。
だったら、できるだけ普通の視点を持たない人に接するのがいいよね。そこでこの本を紹介しよう。
『どこでもない場所』浅生鴨 著という本。いくつか小説を出版されているけれど、これは浅生さんのエッセイ集。
浅生さんはマルチ的な仕事をされているかたで、特定の職種でくくることができない。それゆえその発想は独特で、ボクたちの常識的概念をぶちこわしてもらえる。浅生さんが制作にたずさわっておられら『チョイ住み』というNHKの番組にも、彼の独自な雰囲気を感じられる。
このエッセイ、とにかくしょっぱなから笑い転げる。だから電車やバスのなかで読まないほうがいい。クスクス笑ってしまって、変なやつだと思われかねないからね。
ボクが大ウケしたのは、浅生さんが親知らずを抜くときの体験を書いたエッセイ。笑いすぎて、マジでお腹が痛かった。後半にあった、外国のひどいホテルの話も最高だったなぁ。先ほどの『チョイ住み』で海外出張をよくされていたので、愉快で変な話題にことかかないみたい。
とにかく浅生さんの視点は異質で、ボクはめちゃ大好き。それはきっと、ボクにはない世界観を持たれているからだと思う。このエッセイを読みながら、笑うだけでなく、心に強く響いてきて感動するものもあった。あぁ、少しは自分の世界が広がったかな、と思える素敵なエッセイ集だった。
ちなみに今日、浅生鴨さんが小説の織田作之助賞にノミネートされたというニュースが飛び込んできた。ボクも読んだ『伴奏者』というタイトルで、障害者スポーツをテーマにして書かれた小説。このブログでも感想を紹介させてもらっている。
めちゃ感動して涙した作品なので、受賞されたらいいなぁと心から願っている。『アグニオン』や『猫たちの色メガネ』という小説もオススメだよ〜!
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『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。