生きることに価値はあるのか?
現実世界において、物事には二面性がついてまわる。
二元性が宿命化された物質世界は、ある人にとってはポジティブなものが、別の人にはネガティブな出来事になる。スポーツの試合がもっともわかりやすい。決勝戦を戦って優勝を勝ち取った場合、歓喜の声を上げる人たちと同じくらい、悲嘆にくれたうめき声が発生する。
ある映画を観ていて、そのことを強く感じた。
『素晴らしき哉、人生!』(原題:It’s a Wonderful Life)という1946年のアメリカ映画。ボクの大好きな作品で、映画史上に残る名作であるのは事実。その後の作品に影響を与えたことが有名で、この作品をモチーフにした映画がいくつも作られている。
久しぶりに観たけれど、いつもどおり感動して涙があふれてきた。絶妙な配置で伏線が張られた作品で、ストーリーの見本としても勉強になる。主人公のジョージ・ベイリーを演じるジェームズ・スチュアートの演技が最高にいい。いくつも彼の出演作品を観ているけれど、この映画がベストだと思う。
まだ観たことがない人は、一度観たほうがいい。クリスマスの奇跡を描いた作品なので、ちょうどいい時期だよ。初めて観たときの新鮮な感動は一度きりだから、今からそれを体験できる人がうらやましい。
簡単に言えば、人生に絶望して自殺しようとした主人公が、もし自分が生まれたなかったら世界がどうなっていたかを天使に見せられる。そして自分が生きてきた人生に価値があるのを知り、もう一度生きようと決意する物語。
ただ何度も観ているボクは、ちょっとだけちがった角度からこの映画を鑑賞してみた。完璧にストーリーが組まれているので、観客はこの映画に意図に沿った感動へと導かれていく。そのポイントは、当然ながら天使が見せてくれるヴィジョンにある。
この天使はジョージにとっていい面しか見せていない。彼がどれだけ多くの人を愛し、多くの人の命と人生を救ったかを強調している。彼が生まれなかったパラレルワールドを見せることで、そのことを理解させようとした。
だけど最初に書いたけれど、この世界は二元性に支配されている。ジョージは善人かもしれないけれど、これはあくまでもフィクション世界のこと。
普通の人間なら、ネガティブな部分も持ち合わせている。ボクという人間が生まれたことで幸せにできた人と同じくらい、もしかしたら誰かを傷つけて苦しめているかもしれない。もしネガティブな部分だけを見せられたら、ボクは無価値観に囚われてその場で自殺してしまうだろう。
万人に愛されることなんて不可能。イエス・キリストでもない限り、すべての人に愛を注ぐなんてできない。だから誰かを幸せにしていると同じだけ、誰かを不幸にしているかもしれない。それも具体的にわからないだけに、余計やっかいに思える。
つまるところ、人間の行動はニュートラルなんだと思う。プラス面とマイナス面を相殺すれば、差し引きゼロになるんじゃないだろうか?
だから生きることに価値はあるのか、という質問に答えられるのは、その人だけだと思う。自己満足でもいいと思う。自分の人生に価値があると思える生き方ができるなら、それほど幸せなことはないだろう。
自己肯定感は天使に与えてもらうものじゃなく、自分で手にするものだと思う。久しぶりにこの映画を観ながら、そんなことを考えていた。
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