この世界を形作る、様々な想い
いつも朝日を浴びながら、神戸から大阪に広がる街をながめて朝食を取っている。10年以上見ているのに飽きない景色で、贅沢な朝食だと思って感謝している。
神戸港に到着するフェリーや東西に行き交うJRをながめていると、大勢の人が移動しているのを想像できる。そして眼前に展開するマンションや住宅の中でも、通学や出勤を控えた人たちが忙しく動いているんだと思う。
そんなとき、よく思うことがある。
そこにあるのは笑顔や優しさだけでなく、涙や怒りや恨みだってあるはず。この世に生まれる新しい命もいれば、死も存在しているはず。愛し合っている人もいれば、憎しみ合っている人もいる。人生で最高の喜びを感じている人や、絶望に打ちひしがれている人もあるだろう。
朝食の時間はたかだか20〜30分ほどのことだけれど、その時間だけをとらえても様々なドラマが起きているんだと思う。
もうすぐクリスマス。そしてお正月もやってくる。できることならひとりでも多くの人が笑顔で過ごせたらと思う、
そんなことを感じる映画を観た。
『クリスマスのその夜に』という2010年に公開されたドイツ、ノルウェー、スウェーデン映画。
地味だけれど、とても素敵な作品だった。クリスマスのその日、ヨーロッパで暮らす人たちに起きたことが描かれている。クリスマスは愛する人たちと過ごしたい。そんな熱い想いがこの映画のテーマになっている。
昔は有名なサッカー選手だったのに、落ちぶれて年老いた父と母が暮らす家に帰ることができない。それで物乞いをして列車の切符代を求める中年の男。
妻には愛する人がいて家を追い出された男性。幼い二人の子供に、どうしても直接クリスマスプレゼントを渡したいと死に物狂いになっている。
妻子ある男がクリスマスに離婚してくれると言った約束を信じていたのに、ひとりにされてしまった中年の女性。
内戦のコソボからどうにか逃げ出したものの、出産まじかで途方にくれる若い夫婦。
そして子供を欲しがっている妻に対して、あいまいな返事しかできない医師の男。
そんな人たちの、クリスマスの1日が描かれた作品。登場人物が少しずつ関わってくるので、『ラブ・アクチュアリー』というボクの大好きなクリスマス映画を思い出した。
最初と最後で、人生の不思議さが物語られている。
映画の冒頭のシーン。内戦中のコソボで、ある少年が家を飛び出した。廃墟となった教会で、対立する民族の兵士が少年に銃を向けている。
変わってラストシーン。産気づいて親切な医師に助けてもらった若い夫婦は無事に出産できただけでなく、その医師は内戦から逃げのびることができるよう、自分の自動車まで貸してくれた。
生まれたばかりの子供を抱いた母親が、オーロラを見つめながら回想する。彼女は兵士で、あるとき教会にいた子供に銃を向けた。だけど助けにきた母親を見て、引き金から手を離した。
そう、その子供は冒頭に登場した少年。彼女は少年の命を救ったことで、今度は親切な医師に自分の子供を助けてもらうことができた。地味だけれど、しんみりと感動するシーンだったなぁ。この世界を形作っている。様々な人の想いを感じることのできる映画だった。
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