えっ、ここは仮想世界なの?
人間を50年以上もやっていると、少々のことで驚かない。最新技術等でビックリすることはあっても、天地がひっくり返るようなことはない。
そう思っていたけれど、昨晩になってマジで天地がひっくり返るような経験をした。あまりに興奮しすぎて、妻に必死になって語ったほど。
もう20年以上も前のことなんだけれど、当時は話題になっただろうな。本当にぶったまげた!
『ループ』鈴木光司 著という小説を読んだ。ホラーの勉強を兼ねて、『リング』関連の原作を読み返している。それで『リング』と『らせん』を読み、感想をこのブログでも書いている。
だけどボクの当時の関心はそこで終わったようで、1998年に出版されたこの『ループ』は未読のままだった。完結編として称されていたのを知っていたけれど、あの『らせん』のラストを読んだ人なら、そこで終わりのように感じるはず。
だってリングウィルスが書籍になって、世界中にバラまかれてしまったんだから。貞子と高山竜司の完全勝利で終わっている。未来はリングウィルスの世界制覇という筋書きしか浮かばない。
だけどそこで終わっていなかった。
この『ループ』は近未来の日本で物語が始まる。二見馨という天才少年が主人公。そして彼が20歳になったときに、世界が大きく変化する。
『転移性ヒトガンウィルス』というものが蔓延する。エイズのように接触感染によって拡散する。だから夫婦や親子を中心にして、大勢の人がガンで命を落とすことになった。馨の父も発病して、そのうえ好きになった礼子という女性もウィルスキャリアであることがわかった。
それで天才の馨は、このウィルス被害を防ぐためにアメリカに渡る。細かいことは省くけれど、そこに重力異常があったから。そしてエリオットという老科学者と出会う。そこで恐るべき事実が明かされる。
『転移性ヒトガンウィルス』の構造を調べると、リングウィルスが変異したものだと判明した。たけどリングウィルスはこの世のものじゃない。なんとそれはこのエリオットが中心になって作った『ループ』という人工生命プロジェクトのウィルスだったから。
つまり、つまりだよ。『リング』と『らせん』で起きたことは、実は仮想世界の出来事だったということ。もう衝撃が強すぎてぶったおれそうになった!!!
だったらなぜ仮想世界のウィルスが現実世界にやってきたか。それは高山竜司が原因。彼が貞子に殺される直前、自分の世界が仮想空間であることに気づいた。それで「そちらの世界に俺を連れ出してくれ」と彼は懇願した。
その様子を見ていたエリオットが、彼のDNAを解析して現実世界でクローンとして復元させた。だけど高山はリングウィルスのキャリアだったことで、ウィルスが漏れ出て世界を死滅させようとしている。
地球人を救うには、ウィルスに抗体を持っている人間のDNAを解析するしかない。それはつまり高山竜司ということ。
二見馨は、仮想空間からやってきた高山竜司だった。そこで地球を救うため、馨は元の世界へ戻ることを決意するという物語。この展開が『らせん』のエンディングにつながることになる。
これは物議をかもしただろうなぁ。ボクとしてはめちゃめちゃ面白かったけれど、『リング』ファンにとってはこれまでの展開を全否定されたような気持ちになるだろう。著者のあとがきによると、最初からこんな構想を思いついたわけじゃないらしい。結果としてこうなったんだろうね。
これは他の作品のように映画化されていない。なぜならネタがバレてしまうから。映画では高山竜司を真田広之さんが演じていた。もし映像化しようと思えば、成人した馨は真田広之さんを使うしかない。つまりラストに衝撃が起きるのは、顔が見えない小説だけだということ。
でもこの小説を読んでいると、ボクがいる現実世界も仮想空間のように感じてくる。『リング』の世界にとってエリオットが創造主であったように、この世界をプログラムした科学者がいるような気になってくる。20年経ってこんな衝撃を受けるとは思わなかったなぁ。
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