真の対戦相手は『恐怖』
人生は闘いだ、と言ってもいい。生きることそのものが闘いだと思う。
そもそも生まれる前に精子であったときから、壮絶な戦いを経験している。そして生まれてから死ぬまで、ボクたちは『何か』と闘い続けている。それをやめたときが、この世を去る日だと思う。
そんな人生の闘いの壮絶さと清らかさを、同時に感じさせてもらえる素晴らしい映画に出会った。
『クリード チャンプを継ぐ者』（原題：Creed）という2015年のアメリカ映画。今年になって『クリード２』が公開されている。その映画の素晴らしい評判を耳にして、これは最初の作品を観なければ思って初めて観た。
この作品がシリーズ化されたのは当然だろう。本当に素晴らしい作品で、感動と興奮でずっと両手を握りしめたまま鑑賞していた。人間ドラマとしても最高の作品だと思う。
これは有名な映画である『ロッキー』のスピンオフ作品。年老いたロッキーは、妻のエイドリアン、彼女の兄のポーリーに先立たれ、妻の名前が残ったレストランをひっそりと経営している。
でもこの映画の主人公はロッキーじゃない。主人公の名はアドニス・ジョンソン。でも本当の名はアドニス・クリードという。『ロッキー』ファンの人ならすぐにピンとくる。『ロッキー１』と『ロッキー２』でロッキーと死闘を繰り広げたアポロ・クリードという世界チャンピオンの息子だった。
でも彼は不幸な生い立ちで、正妻の子供ではない。生まれる前に父を亡くし、母も幼いころに他界した。それで施設で育っている。でも父の血を引いたせいで腕っぷしが強く、トラブルばかり起こす。それでアポロの妻が自分の息子として引き取ってくれた。
大学を卒業して大手の会社で働いていたが、自分に向いていないと退職する。そして父のようなボクサーになろうとして、LAからフィラデルフィアへ向かう。父のライバルで、かつ親友だったロッキーにコーチしてもらうため。
ということで紆余曲折がありながら、アドニスとロッキーの二人三脚がスタートする。でもここからが本当の闘いだった。もちろんボクシングの対戦相手は世界チャンピオン。だけどアドニスにとって真の対戦相手は『恐怖』だった。
自分が愛人の子だということに負い目を感じているアドニス。生まれたことが『過ち』だと自覚することを恐れている。だからどうしてもクリードという名を使えない。だけどクライマックスとなる試合で、堂々と『クリード』と名乗ることを決意する。自分のアイデンティティに対する『恐怖』に打ち勝とうとする。
ロッキーも『恐怖』を抱えていた。亡くなった妻と同じガンだと宣告されて、化学療法を勧められる。だけどその苦悩を見てきたことで、最初は治療を拒む。闘いを拒否することで、死を選択しようとした。だけどアドニスとともに闘うことを決意して、セコンドを務めながらも治療に向き合う。
ビアンカというアドニスの恋人も『恐怖』を抱えていた。ミュージシャンとして成功しつつあるのに、進行性の難聴を患っていた。いつか耳が聴こえなくなる『恐怖』に向き合いつつ音楽を続け、アドニスを支えようとする。
みんなが自分の『恐怖』と闘っている。そのひたむきな生き様に、心が激しく揺さぶられる。アドニスは勝負に負けるけれど、『恐怖』には打ち勝つ。その瞬間の感動は、観ているボクたちに言葉にできない『何か』をもたらしてくれる。
本当に素晴らしい映画だった。特にボクのような往年の『ロッキー』ファンにとっては、格別の作品に仕上がっている。そして『ロッキー』を知らない人も感動するのはまちがいない。
アドニスを演じたマイケル・B・ジョーダンという俳優さんは最高！ すっかりファンになってしまった。これは『クリード２』を絶対に観なければ。
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