異世界の恐怖が少年を大人にした
あなたは、子供から大人になった瞬間を自覚しているだろうか?
そもそも子供や大人という定義があいまい。ただ年齢だけで語れるものじゃない。成人式というものがあるけれど、あんなものはただの形式的な儀式でしかない。まだ子供のまま20歳になっている人もいれば、もしかしたら10年以上も前から大人の世界に生きている人もいるだろう。
自分のことを思い返してみた。肉体的にも精神的にも、そして性的にも子供から大人になったと感じる場面がある。だけど明確に言い切れるものでもない。
もしかするとボクの場合は7歳のときかもしれない。母親が男と駆け落ちして家出をした。それから毎日泣き続けた。どれだけ泣いたか覚えていないほど。
だけどある日、泣くことをやめた。子供ごころに、この世界には自分の力ではどうしようもない理不尽なことがあるのを認めたからだろう。起きることを受け入れるしかないと覚悟したんだと思う。まだ肉体的にはガキだったけれど、ボクの内面はあのときに大人になったのかもしれない。知らんけどwww
子供が大人になる瞬間というのは、喜びに包まれたものじゃないのかもしれない。嫉妬、怒り、挫折、絶望というようなものに直面することで、この世界でどうにか生きていく決心をする。それが大人になるということかもしれない。そしてその要因のなかには恐怖も存在するはず。
恐怖を経験することで、大人の世界に入った少年の物語を読んだ。
『アトランティスのこころ』上巻 スティーブン・キング著という小説。1つの中編と4つの短編からなる物語。1960年から1999年までのことが時系列に書かれている。この上巻では1960年の出来事が1つの中編に書かれている。
主人公はボビーという11歳の少年。キャロルというガールフレンドとジョンという親友がいる。母子家庭のボビーは貧しい。母親は自己中な人間で、息子を愛していながらも自分のことしか考えていない。そんなボビーに新しい友人ができた。
それはテッドという老人。テッドの正体は超能力者で、やがてボビーはそのことに気づく。テッドは何者かに追われていて、いつかこの街を離れることがわかっていた。ボビーはテッドを追う人物たちの情報を提供することで、老人との交流を深めていく。
ところがテッドを追っているのは人間じゃなかった。ロウメンと呼ばれている異世界の怪物たち。スティーブン・キングの『ダークタワー』シリーズを読んだことがある人なら、ここで狂喜乱舞することになる。ボクもその一人だった。
この小説は『ダークタワー』のスピンオフ作品と言っていいだろう。異世界にはパラレルワールドが存在していて、クリムゾンキングという悪の帝王がすべての世界を支配しようとしている。そのために超能力者が集められて、世界を正常に保とうとする仕組みを破壊させている。
テッドは魔の手にかかって破壊者として働いていたが、その世界から逃げ出して1960年のアメリカにやってきた。そのことを知ったボビーはテッドを逃がそうとするが、彼もロウメンにつかまってしまう。ロウメンはボビーを異世界へ連れて行こうとするが、恐怖にかられたボビーはこの世界に残してもらうことを懇願する。
それは彼が大人になった瞬間だった。テッドが連れ去られた日を境に、11歳という年齢で彼は大人の心を持ってしまう。親友のジョンと離れてしまい、胸がキュンとするファーストキスを交わしたキャロルとの縁も切れてしまう。
大人になるということは、いままでの世界が豹変してしまうことなんだろう。読んでいて自分の少年時代とかぶり、なんとも切ない気分になった。やがてボビーは非行に走り、刑務所のお世話になる生活を送るようになる。唯一の救いはテッドが再び逃亡したのを知ったことだろう。
さてさて、下巻の4つの物語はどうなるんだろう? おそらく別の登場人物が活躍するだろうけれど、最後にはすべてが密接に関係してくると思う。それこそが『ダークタワー』シリーズの真骨頂だからね。今夜から下巻を読むのが楽しみで仕方ない。
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