死後世界の扉を開いた報い
ボクは十代のころ、死後世界の存在と仕組みが証明されたなら、世の中が変わるかもしれないと思っていた。人を殺したり自殺するのはよくない、と過去の宗教家たちは訴えてきた。それでも犯罪や自殺はなくならない。
だからこの世での行動があの世に反映されることが科学的事実として提示されたら、戦争や犯罪はなくなると考えた。だけどいまはちがう。むしろ死後世界のことはわからないほうがいいと思っている。証明されてしまったら、この世界が色あせてしまうような気がするから。
現実世界でしか学べないことがある。経験できないことがある。その根底にあるのは『終わり』があるということ。
死が終わりだと考えることで、自分の成功にとって邪魔な人間を殺そうと葛藤する。死が終わりだと考えることで、残された人生を充実させようとする。どちらも『終わり』があることを信じられないと、本気で経験できない。
だから死後のことは、死んでから経験すればいい。死後世界があるかもしれないし、単なる無の世界かもしれない。でもそんなことを思い悩んでいる時間があるならば、いまの目の前の人生を全力で生きるべきだと思う。そのために生まれてきたんだから。
それでも人間は好奇心に勝てない。死後世界を知りたいと願う。愛する人がこの世を去ったあとで、どうなっているのか知りたい。そんな人間の渇望をテーマにした小説を読んだ。
『心霊電流』下巻 スティーブン・キング著という小説。
上巻については『絶望がもたらすのは神か悪魔か?』という記事に書いているので参照を。
主人公はジェイミーというギタリスト。上巻では少年時代に知り合ったチャールズという牧師との出会いと再会が中心に書かれている。そジェイミーが40歳くらいまでの物語だった。
妻と息子をおぞましい交通事故で亡くしたチャールズ。そんな彼は観衆を集めて不思議なショーを行っていた。それは電流を使ったヒーリング。ヘロイン中毒だったジェイミーもこの奇跡の治療によって助けられている。
ところがその治療を受けた数パーセントの人間に、深刻な問題が起きていた。ひどい後遺症に苦しみ、自殺する人もいた。下巻の始まりは、ジェイミーがチャールズの真意を問うため彼を訪れるところから始まる。
そこでわかったのは、チャールズの行っているのは古いキリスト教の文献に基づく、封印された悪魔の書の実戦だったということ。彼の目的は死後世界の扉を開くこと。命を落とした妻と息子があの世でどうなっているのかを知りたかったから。そのために何百人もの人間を実験台にしていた。
ジェイミーはそんなチャールズと距離を置こうとするけれど、どうしても彼を助ける必要にせまられる。末期ガンを患ったジェイミーの元恋人を治療することを条件に、チャールズの手伝いをすることになる。それは死者を復活させることで、死後世界の扉を開くという秘儀だった。
今年に出版されたばかりの新作なので、ネタバレはこれ以上しないほうがいいかな。上巻と下巻の前半で散りばめられていた伏線が、ラストで一気に回収される。そしてそれはおぞましいとしか言えないものだった。
ちょっとだけネタバレしちゃおう。
チャールズがイエス・キリストのような奇跡を行えたのは、その見返りがあったということ。奇跡によって助けられたすべての人間は、自分の愛する人間を道連れにして死の世界へ戻ることが刻印されていた。それが死後世界の扉を開いたことの報いだった。
ネタバレはこれくらいでやめておこう。とにかくこの小説を読むと、死後世界のことを考えるのが嫌になるかも。そんな時間があったら、いまを精一杯生きようと思うかもしれない。あとになってじわじわと恐怖が押し寄せてくるホラー小説だった。
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