酒呑童子VS金太郎
創作の世界は自分との戦い。小説を書いているとき、いつもそう思っている。少しでも面白いコンテンツにするため、切磋琢磨していくしかない。
ただ競争の世界であるのも事実。毎日数えきれないほどの本が出版され、書店での競争にさらされる。ボクの初めての本が書店に並んだとき、編集長さんから「これからが戦いの始まりですよ」というような言葉をいただいた。それほどきびしい。
どれだけいいコンテンツを作っても、同じ時期にそれ以上のものがあれば売れない。勝負に負けてしまう。だから自分との戦いであるけれども、ライバルの動向も意識していく必要がある。
角川春樹小説賞というものがある。数年前にボクが応募したとき、見事に落選したwww
その同じ年に応募して、受賞された作品がある。ということでいまさら感が強いけれども、そのときの受賞作を読んでみた。
『童の神』今村翔吾 著という小説。まったく予備知識なしで読み始めたところ、めちゃめちゃハマってしまった。10世紀の平安時代の物語。といっても貴族が主人公じゃない。いよいよ武士が姿を見せ始める時期で、969年の安和の変から物語が始まる。
安和の変というのは、朝廷に敵対する豪族の撲滅を意図した戦。平将門の乱以降、日本中で大和朝廷に対する反乱が続いていた。その討伐相手をわかりやすくいえば、アメリカの先住民族のような存在。
大陸から大和朝廷の祖先が日本に移住してきたとき、追いやられて山岳等に逃げ込んだ民族。被差別民族でもあって、人間扱いされていなかった。だからこの時代には、大江山の鬼や三上山の百足が物語に登場して、その征伐が語られていた。人間でなく、鬼や百足や土蜘蛛という扱いをされていた。
その安和の変の数年後から数十年後がこの物語の舞台。追いやられた鬼や百足たちが、人間としての尊厳をかけて朝廷の討伐兵と戦う物語。まだ昨年に出たばかりの本なので、詳細は書かないでおこう。
主人公は京都の丹波にある大江山の酒呑童子。そして朝廷に味方して彼の宿敵となるのが金太郎こと坂田金時。これだけでもワクワクしてきて、時代小説好きのボクのツボにハマってしまった。
この物語の素晴らしいところは、伝説の鬼である酒呑童子を人間として復活させたこと。それは金太郎についても同じ。それ以外にも、お伽草子に出てくるようなキャラを普通の人間として登場させている。
この本を読んでから酒呑童子について調べてみたけれど、数えきれないほどの伝説が残っている。著者はそれらの伝説をくまなくあたり、違和感のない物語としてまとめあげている。おそらく相当量の文献を読破されたことだと思う。
これは時代小説なんだけれど、現代社会の問題を明確に取り上げている。鬼たちはマイノリティーの代表であり、人種差別やLGBTのようにこれまで社会から排除されてきた人たちを象徴しているように思う。だから彼らが一致団結して朝廷に立ち向かうとき、全力で応援したくなる。
本当に素敵な物語だった。興奮しながら何度も泣かされた。完敗だわ。こんな小説、とてもボクには書けない。審査員が満場一致でこの作品を選んだことに納得した。
気合入るよなぁ。こんな人たちが大勢投稿するんだからね。もっともっと自分のスキルを高めていかなければ。
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