子供を犯罪者にした大人たち
『グリコ・森永事件』というのを知っているだろうか？
40代以上の人なら耳にしたことがあるだろうし、50代以上の人なら具体的なことを覚えていると思う。大阪・京都・兵庫をまたにかけた殺人未遂事件で、2000年の２月に公訴時効が成立している。警察庁広域重要事件としては初の未解決事件となった。
1984年から1985年にかけて起きた事件なので、ボクは22歳から23歳のころ。よく知っている京都の店で青酸ソーダ入りのお菓子が発見されているので、怖さを身近に感じていた。
もっとも記憶に残っているのは江崎グリコの社長が誘拐された事件。他の食品会社を恐喝したときなどは、現金の受け渡しの指示がまるで映画のようだった。子供の声を使ったテープでメモの場所を指示するなど、まさに『かい人21面相』という異様な雰囲気だったことを記憶している。
そんなこの事件に関した小説を読んだ。これがめちゃめちゃ面白い。いや、面白いと言ったら被害者に失礼かも。だけど今年読んだ小説で、ベスト３に入るのはまちがいない、と断言できるほどの素晴らしい小説だった。
『罪の声』塩田武士 著という小説。
もちろんフィクションなので、事件の真相に迫ったドキュメントではない。江崎グリコや他の食品会社の名前も変えてある。
ただし実際に起きたい出来事に関して、時系列に沿って完璧にフォローされている。その取材力は感嘆するしかない。どれほどの文献を読み込み、どれほどの人に取材し、どれほどの考察を重ねたのだろうと、その情報量の多さに著者の執念のようなものを感じた。
おそらく警察の具体的な動きや、捜査上のミスや、犯人グループの動きを完璧にとらえているだろうと思う。だからどこまでが事実で、どこからがフィクションなのかまったくわからない。読んでいるうちに、すべてが事実だと錯覚するほどの説得力に満ちた作品だった。
ただこの物語の焦点は、犯人グループではない。「かい人21面相」は現金受け渡しの指示に、子供の声を使っている。男の子２人と女の子１人。もちろん小学生くらいの子供なので、犯罪だとは気づいていない。
つまり犯人グループは子供たちを無理やり犯罪に加担させている。著者はこの３人の子供に注目している。30年経過した現在、この子供たちがどんな人生を歩んだかを物語の主題にしている。それは涙なしでは読むことのできない切ないストーリーだった。
新しい小説なので、これから読む人のためにネタバレはしない。主要な登場人物の２人だけ紹介しておこう。
曽根俊也：父の遺品のなかに、子供時代の自分の声が入ったテープを見つける。それはこの事件に使用されたものだった。父が犯人でないかと疑った俊也は、その真偽をたしかめるために行動を起こす。
阿久津英士：大阪の新聞記者。年末の特集で未解決であるこの事件についての取材を命令される。彼が真実に迫っていく過程は、この物語を牽引していく原動力となる。
この事件を知らない人でも、読み出したら止まらないと思う。この小説は読まないと損をするよ！
ちなみに2020年に映画化が決まっている。曽根俊也を演じるのは星野源さん。そして阿久津英士を演じるのは小栗旬さん。いいキャストだと思う。どんな映画になるのか楽しみだなぁ。
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