孤独死に向き合い続けた男
孤独死という言葉は、あまり好きじゃない。そもそも死は孤独なものなので、あえてこの言葉を使用する必要はない。看取ってくれる人がいようといまいと、死は究極的には個人の主観的な体験。逝くときは一人で逝くしかない。
ただ『おひとりさま』が増えた現代社会において、一人で死を迎える人が増えているのは事実。そしてその多くの人に身寄りがなかったり、連絡が取れなかったりする。日本だけでなく、外国でも同じ問題を抱えている。
そんな孤独死に対して、正面から向き合った映画を観た。とても強く心に残る作品だった。
『おみおくりの作法』(原題:Still Life)という2013年のイギリス・イタリアの合作映画。
主人公はジョン・メイという44歳で独身の男性。ロンドンのケニントン地区で民生係として働いている。仕事は孤独死をした人の身寄りを探し、葬儀を取り仕切ってもらうこと。
だけどこの時勢、身寄りのない人が多い。あるいはワケありの人生を送り、故人の葬儀に出席したくないという人もいる。そうなると、役所が手配して葬儀を行い埋葬する。そこには故人に対する『想い』はなく、単なる手続きでしかない。
だけどジョンはちがった。徹底的に家族を探す。それでも見つからなければ、たった一人で葬儀に参列する。その人の宗教、生前の仕事、信条等を調べ、できる限り心を込めた弔文を作成する。
なぜなら彼も孤独だったから、恋人はいないし、見たところ連絡を取れる家族もいない。いつか彼も孤独死の立場になることは見えている。だから孤独な死を迎えた人に共感できるのだろう。
ところが行政は予算削減のため、地区の統合を決定する。その結果ジョンは22年勤めた仕事を解雇される。だけど最後の仕事も、全力で家族探しに奔走する。ビリーという男性が亡くなった。彼の自宅には娘を写したアルバムが残されていた。
ジョンはその娘を求めてイギリス中を旅する。そしてビリーのかつての愛人、元職場の同僚、軍隊時代の戦友、さらにホームレス仲間にまで会う。だけど誰もビリーの葬儀に出席してくれない。それでもあきらめないジョンは、メアリーというアルバムの娘を見つける。
そしてメアリーは葬儀に出席してくれることを約束してくれた。それだけじゃない。自分の父親に対する献身に心を打たれ、メアリーはジョンに惹かれる。二人に明るい未来が見えるような予感が満ちてくる。
ジョンはビリーのために、自分用に購入しておいた見晴らしのいい墓地を提供する。墓碑も作り、立派な棺も選んだ。ところが葬儀の直前、ジョンは交通事故にあって命を落とす。あぁ、なんていうことだろう。
驚いたことにジョンの努力が実り、ビリーの葬儀には大勢の人が参列した。そこにはメアリーの姿もあった。
だが同じときの同じ墓地の無縁墓地に、ジョンは孤独死扱いでひそかに葬られる。当然ながら参列する人は誰もいない。これだけでも切なくて泣けてくる。だけどラストシーンでさらに涙が止まらなくなった。
葬られたばかりのビリーがジョンの墓を訪れる。いや、彼だけじゃない。22年間をかけてジョンが一人で見送ってきた数え切れない大勢の霊が、感謝の思いを伝えるかのように彼の墓地へ集まってくる。感動してマジで泣いてしまった。
監督はこうした孤独死を担当している民生係に会って、この物語を映画にしたそう。だからこの映画の最初から最後まで、現代社会の問題と人間の孤独がさりげなく描かれている。押しつけがましくないだけに、余計に心に残る映像ばかりだった。
日本語タイトルは微妙だけれど、とても素晴らしい作品だと思う。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
『第1回令和小説大賞』にエントリーした小説を無料で読んでいただくことができます。くわしくはこちらからどうぞ。